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第48回――フィリーの真髄

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2010/09/28   19:10
更新
2010/09/28   19:11
ソース
bounce 324号 (2010年8月25日発行)
テキスト
文/出嶌孝次

 

時代を超えて愛され続け、後進に多大な影響力を誇るレーベル、フィラデルフィア・インターナショナル。すでに数多くの作品が超名盤として認定されているが、今回はその陰に隠れて重要性がさほど語られてこなかった名作群を紹介してみましょう!!

 

〈フィリー・ソウル〉を言葉のまま〈フィラデルフィア産のソウル・ミュージック〉全般として捉えても決して間違いではないが、一般的に〈フィリー・ソウル〉といえばやはり、70年代初頭からのブーム期に形成されたフィリー・サウンドのことを示すのだろう。美しいストリングスに象徴される洗練された意匠と、ダンサブルな機能性を備えたビート、ソウルフルなヴォーカル。心を奪われずにはいられないコンビネーションである。そして、そんなムーヴメントの核となったレーベルこそがフィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ(以下PIR)であった……なんてことは言うまでもないか。

音楽史上における屈指の名プロデューサー・コンビ、ケニー・ギャンブルとレオン・ハフによってPIRが設立されたのは71年のことだ。トム・ベルとケニー&トニーなるデュオを組んで50年代末にデビューしていたギャンブルと、フィル・スペクターらの下でスタジオ作業を学んできた鍵盤奏者のハフ。やがてコンビで制作を行うようになった2人は、66年にエクセル(後にギャンブル)という自主レーベルを立ち上げている。その頓挫にもめげず、69年にはネプチューンを設立。同時期にはギャンブルの元相棒トム・ベルがデルフォニックスやスタイリスティックスをブレイクさせ、ストリングスやホーンを多用したアレンジでフィリー・サウンドの雛形を確立しつつあった。

そんな状況を受け、クライヴ・デイヴィス時代のCBSと配給契約を結んで設立されたのがPIRなのである。ギャンブル&ハフとトム・ベルの3人(いわゆるマイティ・スリー)やアレンジャーのボビー・マーティンを中心にしたチームは、ネプチューン時代に契約したオージェイズをはじめ、ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツ、スリー・ディグリーズらのポップ・チャートにも跨がるヒットを連発し、なかでもビリー・ポールの“Me And Mrs. Jones”(72年)はレーベルに初の全米1位をもたらした。そんな快進撃を支えたのがレーベルお抱えのスタジオ・ミュージシャンたちである。ロニー・ベイカー(ベース)やノーマン・ハリス(ギター)、アール・ヤング(ドラムス)、ヴィンセント・モンタナ(ヴィブラフォン)、ラリー・ゴールド(チェロ)らを擁する敏腕集団はやがてMFSBの名でアーティスト・デビューも果たし、流麗にして軽快なフィリー・サウンドを時代の音に押し上げたのだった。

が、70年代半ばになると中心ミュージシャンのベイカー/ハリス/ヤング(B-H-Y)らが離脱するなどして、PIRの陣容もサウンドの感触も変容していく。ちなみにB-H-YはNYのサルソウルに移籍し、煌びやかなディスコ時代の到来に対応した形で往時のフィリー・サウンドを継承していった。その音像はガラージ/ハウスにそのまま直結していくのだが……それはまた別の話だ。

さて、ギャンブル&ハフは新たにシカゴから名ドラマーのクイントン・ジョセフを登用するなどしてMFSBを立て直し、デクスター・ウォンゼルやマクファデン&ホワイトヘッド、シンシア・ビッグスといった才能を重用して本家のサウンドをアップデートしていく。76年を転機にした〈後期PIR〉は、オージェイズのような前期からのスターから、テディ・ペンダーグラス、ジーン・カーンやジョーンズ・ガールズといった新たな華、パティ・ラベルやスタイリスティックスら地元出身の大物、そしてジャクソンズまで多彩な面々を送り出し、甚大なポップ・アピールを誇った前期とはまた異なる魅力を80年代まで発散していくのである。

ただ、不幸にも後期PIRの作品は権利上の問題からこれまでその多くが復刻されずにいた。その結果、必然的に前期PIRの作品群にばかりスポットが当たることになり、その時期のクロスオーヴァー・ヒットの纏う懐かしいムードだけがフィリー・ソウル観を形成してきたことは否めないだろう。もちろんそれも間違いではないが、ポピュラリティーの高い〈懐メロ〉ばかりがフィリーではないのだ。

今年に入ってからは、日本でも〈THE NEW STANDARD OF PHILADELPHIA〉というテーマを掲げて、別掲のガイドで紹介している後期PIR作品やレアな前期作品のリイシューが進められてきた。また、年頭に逝去したテディ・ペンダーグラスやジャクソンズの作品も入手が容易になっている。レーベルの設立40周年を前にして、改めてPIRの全容を楽しむには絶好の機会が訪れたと言っていいだろう。

 

▼PIR音源の最新コンピを紹介。

左から、ダンサブルなアップを中心にした『Philly Groovy』、ミディアム~スロウを主体にした『Philly Mellow』(共にソニー)

 

▼今年に入って復刻されたPIR作品を一部紹介。

左から、テディ・ペンダーグラスの79年作『Teddy』(Philadelphia International/ソニー)、ジャクソンズの76年作『The Jacksons』(Philadelphia International/Epic/ソニー)

 

▼別掲のディスクガイドと同タイミングで復刻されたPIR作品を紹介。

左から、バニー・シグラーの74年作『That's How Long I'll Be Loving You』、マクファデン&ホワイトヘッドの79年作『McFadden & Whitehead』、パティ・ラベルの83年作『I'm In Love Again』(すべてPhiladelphia International/ソニー)

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