NEWS & COLUMN ニュース/記事

第48回――フィリーの真髄

PIRの宝物庫をご開帳――(1)

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2010/09/28   19:10
更新
2010/09/28   19:11
ソース
bounce 324号 (2010年8月25日発行)
テキスト
文/出嶌孝次、林 剛

 

DICK JENSEN 『Dick Jensen』 (1973)

ハワイのポップス・シンガーによる〈フィリー詣で〉盤。〈晩年のエルヴィス・プレスリー?〉〈藤岡弘、?〉といったマスクからは想像がつかないが、ギャンブル&ハフやトム・ベル、バニー・シグラーにプロデュースを仰いだ本アルバムは、黄金期のMFSBサウンドを浴びてバリトン系の歌声を轟かせた初期PIRの隠れ名作だ。スロウ・バラードの“New York City's A Lonely Town”とダンサーの“Peace Of Mind”にフィリー絶頂期を感じる。*林

YELLOW SUNSHINE 『Yellow Sunshine』 Gamble(1973)

PIRの傍系レーベル、ギャンブルから登場したヴォーカル&インスト・グループ。あのデクスター・ウォンゼルが在籍していたことでも知られるが、同時期のロイ・エアーズに通じるそのジャズ・ファンク~フュージョン的なサウンドと宇宙趣味は、後のウォンゼルのソロ作に直結するそれと言っていいだろう。なかでもグループ名を冠した表題曲はイナタくもスマートなファンクで、ブレイクビーツの古典としてもお馴染みだ。*林

BILLY PAUL 『When Love Is New (1975)

PIR以前からギャンブル&ハフと活動してきた生粋のフィリー野郎。全米1位に輝いた不倫ソング“Me And Mrs. Jones”のムードのみで認知されがちな人だが、本作の雄々しさにそんな評価も更新されるはず。例えばJ・ディラ制作のスティーヴ・スペイセック曲やヤング・ジーズィに使われて定番ネタ化した骨太ファンク“Let The Dollar Circulate”は不景気を歌ったものだし、そうした硬派な側面はカーティスらと並び称されるべきだ。*出嶌

CITY LIMITS 『Circles 』 TSOP(1975)

84年にフィリー・ワールドからソロ作を出す実力派歌姫、テリー・ウェルズの在籍でも知られる男女2名ずつのヴォーカル・グループがPIR傍系のTSOPに残した唯一のアルバム。制作はブルース・ホウズとジョセフ・ジェファーソンで、ファンキーで壮麗なダンサー“Love Is Everywhere”を筆頭に、開放感のあるフィリー・サウンドに乗ってソウルフルな男女のヴォーカルが絡み合う。ニューヨーク・シティのバラード“Uncle James”もカヴァー。*林

ANTHONY WHITE 『Could It Be Magic』 (1976)

厚ぶちの眼鏡にハスキーで熱いヴォーカル。まるで〈フィリー版デイヴィッド・ラフィン〉を狙ったかのような男がPIRから発表した唯一のアルバムである。プロデュースはアラン・フェルダーやブルース・ホウズらで、軽快なフィリー・ダンサーや優美なスロウは70sフィリーの粋に溢れ、後にハウス・シーンから再評価されたのもよくわかる。今回のリイシュー盤にはシングル・オンリーだったミディアム・ダンサー“Hey Baby”も収録! *林

ARCHIE BELL & THE DRELLS 『Where Will You Go When The Party's Over (1976)

“Tighten Up”(68年)のヒットで知られたヒューストン出身グループの、〈ディスコ・フィリー〉な快作。ビッグ・ダディ・ケインらにネタ使いされた“Don't Let Love Get You Down”やフロア人気の表題曲など、これぞフィリー!といった華麗なダンス・チューンの連続で、マクファデン&ホワイトヘッドらの好サポートぶりが光る。アーチー・ベルのエネルギッシュな歌も説得力十分だ。*林