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LITTLE CREATURES

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360°
公開
2011/02/09   15:55
更新
2011/02/09   15:58
ソース
bounce 328号 (2010年12月25日発行)
テキスト
インタヴュー・文/桑原シロー

 

デビュー20周年のLITTLE CREATURESを総ざらい!

 

 

「え、5年間? そんなに長かったの? いま初めて知ったよ」と、鈴木正人(ベース)が驚きながら訊き返す。前作『NIGHT PEOPLE』から今回の新作までのブランクは5年もあり、過去最長なのだという話をしたときのことだ。

「そうだよ、ワールドカップの周期より長くなっちゃったんだぜ」と答える栗原務(ドラムス)。そう、このブランクは今回トピックになってしまっているほどなのだから。

 

テンションが高いものにしたかった

LITTLE CREATURESのニュー・アルバム『LOVE TRIO』は彼らの5年ぶりとなる新作で、デビュー20周年を記念する一枚でもある。資料には〈ダンサブルでちょいワルなロックンロール・アルバム〉とあるが、その真ん中のワードに反応してしまう人も多いはず。で、これが確かに事実なのだ。レコーディングの前にはどんな構想を練っていたのだろうか?

「『NIGHT PEOPLE』は3人で同時に演奏したものにあまりダビングなどをしないで作ったんだけど、そこで自分のなかでは一周したような気持ちになって。そこで一周した後にこういうアルバムが出来たんだよね。で、それが20周年に重なったという……」(青柳拓次、ヴォーカル/ギター)。

「去年、ドラムとギターと6弦ベースでガレージ・バンドみたいなライヴをやっていて。個人的にはああいうちょっと元気がいい感じのことをやりたいって想定してた」(栗原)。

「そうだね、テンションが高いものにしたかった。レコーディング前はそういう気分になっていたんだね、40歳を前にして(笑)。事前にシンセサイザーをかなり使おうとか、ヴィンテージ趣味っぽくならないようにしようとか相談はしました。前作の反動ってことがよくあるんです」(青柳)。

前作は落ち着きのあるアコースティック系の音色に彩られたアルバムだった。それに対する反動で、ダンサブルでちょいワルでロックンロールな要素が引っ張り出されたということか。去年のライヴでやっていたという“The Sand Cage”、エレキが嬉しそうにギャンギャンと鳴いている“#9”といったロック・チューンは目の覚めるような出来栄えだ。

「前作はフェーダーで音をいじったりせず、3人の音量だけでアンサンブルを作っていった。今回はあの大変さから解放されるためにガツンとやろうと決めたものの、結局は難しくて……」(栗原)。

「普通のビートじゃつまんないからいつもドラム・パターンを凝っちゃうんだけど、当然そのシワ寄せが彼(栗原)に行ってしまう。20年やってたって、こんなに必死なんだよね(笑)」(鈴木)。

“My Sweet Alien”をはじめ、1曲のなかでリズム・パターンが複雑に変化する曲が多く見受けられる。「今回はドラマーいじめな曲が多くて……」と嘆いていた栗原だが、ただその苦労を3人で共有しながら楽しんでいるようなムードは如実に伝わってくる。さらに、苦労を喜びに変えてガムシャラに疾走しているような勢いもある。

「実際のレコーディング時間は、過去最短・最速だったかも」(栗原)。

「ひょっとしたら、そのスピードが良い影響を与えたのかもしれない。最初はハープやストリングスを入れようと考えてたけど、作業日程を考慮してそういうのはナシで仕上げました。結果、シンプルで一個一個の音がよく鳴っている作品になったと思う」(青柳)。

 

長いことやってきた関係性

ところで、予想のつくことであったが、彼らは仕事以外で普段はめったに会わないそう。だからこそ顔を揃えたときは「すごく濃い時間になる」(青柳)というのは想像に難くない。

「ウチらは実際のところ、音の部分でしか接していないから。普段から酒を酌み交わして、っていう付き合いはしてない」(栗原)。

「そうだね、近すぎて考えとか揃いすぎるようになると、今度は差異が気になってくるだろうし。好みもぜんぜん違う相当バラバラな3人で、いまだによくわからないから新鮮(笑)」(青柳)。

そんなペースで彼らは20年超、LITTLE CREATURESを続けてきた。「付き合ってた年月だけ言えば、すごい大物感があるよね」と栗原は笑うが、〈ヴェテラン〉という表現はどこか不似合いだったりする。その感覚は、今回同時にリリースされたベスト盤『Omega Hits!!!』を聴いて思い出した、彼らがいつの時代もどこかのシーンとは数歩離れた場所で自由に音楽を探求していたことが起因しているのかも。特に2000年代の彼らは神出鬼没で、『NIGHT PEOPLE』のジャケに描かれた幽霊のように、ふわふわと漂っているような印象もあった。

「コンスタントに活動していないことがいちばんデカイ理由だと思う。バンド活動はそんなにやってないのに、それぞれがいろんな人の作品に参加して、LITTLE CREATURESの誰々って紹介されているから、余計に幽霊感が出ているのかも」(鈴木)。

そこで、これまでにバンドの危機はなかったのかと訊いてみたら、「全然」ときれいにハモった彼ら。「昨日、PVの撮影でディズニーランドの近くを通っていたとき、〈今度3人で行く?〉って話してた」ぐらい仲が良いと青柳が教えてくれたけれど、確かに3人が胸倉を掴み合っているような画は浮かんでこない。まったくLOVEなTRIOだが、前に比べて揃って動き出したときに働く想像力がいっそう活発になって、刺激的だという。

「そもそも〈これはクリーチャーズ的ではない〉って発想がなくて、レコーディングでもみんな自由なものを出してくる。いつも相談しないで持ち寄るのに、結果アルバムごとに一貫性が生まれるのは、長いことやってきた関係性があるからこそなんでしょうね」(鈴木)。

「さっき(栗原が)ドラムで苦労しているって話していたけど、彼に求めるようなドラム・パターンをほかのドラマーには提示できない。正人に対しても同じで、2人ならこちらの提案をきっと良くしてくれるだろうって信頼が強くある。2人を頭の片隅に置きつつ、自由に作曲できているという安心感はあるかな」(青柳)。

初志貫徹。LITTLE CREATURESの道程を思い浮かべてパッと出てくるのはこんな言葉だ。新しい音を奏でたいという欲求に従いつつ数々の作品を織り上げてきた彼らは、多くのアーティストからも支持を集めており、年明けにはコーネリアスやUA、くるり、ハナレグミなどが集ったLITTLE CREATURESのカヴァー・アルバム『Re:TTLE CREATURES』も到着する。愛すべきTRIOよ、永遠なれ。

 

▼LITTLE CREATURESが参加した作品を紹介。

左から、2009年のくるりのトリビュート盤『くるり鶏びゅ~と』(NOISE McCARTNEY/スピードスター)、2010年のカヴァー集『KABA』(スピードスター)

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