レーベルとしての正式なスタートから15年、その母体となったレコード・ストアの開店から20年――真摯なクォリティー・コントロールを怠らず、常にアンテナを張り巡らせながら、いまでは〈テクノ・レーベル〉という往年のイメージに易々と縛られない広がりも見せているコンパクト。ここではその歴史と近年の良品をコンパクトに振り返ってみよう!
20周年に盛り上がるフォイト兄弟! 飲みすぎですよ!
「僕は、開店時の彼らの最初の客で、実は彼らのセレクションを全然気に入っていなかった。それで、〈どうしてこのアーティストやこのレーベルの取り扱いはないんだ?〉とか、いろいろ文句を言ったり、問い合わせしたりしていたんだ」。
20年前の思い出をそう語るのはミヒャエル・マイヤー。発言中の〈彼ら〉——ウォルフガングとラインハルトのフォイト兄弟を中心に、ヨルグ・バーガーとユルゲン・パーペを加えた4人が、ドイツはケルンで93年に開店したレコード・ストアこそコンパクトである。ミヒャエルはそこの口うるさい常連客だったわけだが、やがてスタッフたちと友達になった彼はバイヤーを務めるようになる。
ミヒャエルも交えてまだまだお祝い中
「そうこうしていたら、実は彼らは誰一人としてDJではなく、みんなプロデューサーなんだっていうことがわかったんだ。他の人の音楽にはあんまり興味がないっていう感じの人たちでね。でも、彼らと僕の間には強いシンパシーが芽生えていて、それですぐ友達になった。そして、僕はバイイングを任せられることになって、その半年後にはお祖母ちゃんの遺産である1000ドイツマルクを投資して、ビジネス・パートナーになったってわけなんだ」。
80年代から電子音楽を作ってきたミュージシャン気質のヨルグもウォルフガングもすでに三十路に入っており、まだ20歳そこそこのDJだったミヒャエルにすればセンスの噛み合わない部分もあっただろう。が、この5名の共同経営者によるバランスが、コンパクトをドイツのみならず世界有数のテクノ・レーベルとしてサヴァイヴさせてきたのは間違いない。
以前のショップの外観
とはいえ、そのコンパクトがレーベルに発展するには、ストアの開店から5年の期間を要することになる。そもそも同じ93年、ウォルフガングは自主レーベルのプロファンを設立し、マイク・インク名義でのリリースを始めていた。そして、同レーベルから96年に出た初めてのCDがズバリ『Kompakt 1』というコンピだったのだ。そこからレーベルへと発展したコンパクトは、98年のコンピ『Koln Kompakt 1』を皮切りに精力的なリリースを始める。そこでA&Rとしてもクリエイターとしても頭角を表してきたのが、すでに多方面で自身のトラックも発表しはじめていたミヒャエルだった(現在のプロファンはコンパクトのサブ・レーベル的な扱いに移行し、ウォルフガングの実験場として継続している)。コンパクトがレコード会社に発展した際、理想像として目標にしていたレーベルについて、彼はこう説明する。
「僕の最大のインスピレーションは、ニュー・グルーヴ(88〜92年にNYで活動していた初期ハウスの重要レーベル)だった。とにかく僕は、それはそれは誠実に、彼らのリリースをコレクションしていてね。90年代初頭、彼らはすごいペースで作品を出していたんだよ。毎週12タイトルとかね。それはレゲエやテクノから、ジャジーなディープ・ハウスまでとにかく非常に幅広くてね、でもどれをとってもニュー・グルーヴのものだってわかるんだよ。そのA&Rの趣味嗜好っていうものを、どんな時も頼りにできた。コンパクトの方向性はニュー・グルーヴとはまったく別物なんだけど、それでもどこかでやっぱり似たところがあると思う。アティテュードや、すごく特徴的なアートワークなどの面でね」。
以前の店内
立ち上げ当初こそミニマルやマイクロ・ハウスを主軸にしているという印象の強かったコンパクトだが、そのイメージが15年もの間、絶え間なく更新され続けていることには、ニュー・グルーヴの影響を受けたミヒャエルの力が大きいということなのだろう。だが、一口に20(15)年といっても、その間には業界やシーン全体を揺るがす大きな動きが何度もあった。
「20年前、この地球上はまだまだアナログ・レコード天国だった。いま現在、コンパクトのレコードストアやアナログ・ディストリビューションはうまくいっていて健在だけれど、とはいえデジタル・フォーマットとの戦いには負けたといってもいいだろう。特に大変だったのは2008年~2011年にかけてだったね。最近はヴァイナルDJも少し復活してきていると僕らは思っていて、そして特に若い世代には、何か実際に触れて匂いを嗅げるような物を持つということが必要なように感じているんだ。でも、ほとんどのDJがデジタルDJへと転向してしまっているのが現状で、それってちょっと悲しいよね……。唯一もっとも変わらないことといえば、僕らの音楽に対する情熱。それは、この20年で一度も変化していないことだ」。
キメるフォイト兄弟
そんな変わらぬ情熱がコンパクトを20年間も動かしてきた。そして、変化を恐れない姿勢も彼らには重要なことだという。
「僕たちは、いままで積み重ねてきたものに対して非常に誇りを持っているけど、それと同時に、明日や未来に起こることに対してもすごく好奇心を持っているんだ。いっしょに仕事をするアーティストたちに対して、本当に真剣に責任感を持ってやっている。コンパクトというのは、アーティストによって創られ、アーティストのために運営されているんだ。音楽に関するリスクに対しても、アーティストたちがどれだけ安心し、守られていると感じることができるかという点を、僕たちはすごく重要視している。そして、常に何か〈違うもの〉を探し求めてる。僕らは本当に飽きっぽいからね。すぐ飽きちゃうんだ」。
飽きた結果かどうかはともかく……そこに集う顔ぶれは常に流動的ながら、それでも質の高い作品をコンスタントに作り出すアーティストたちは、確実にレーベルへの信頼を高めることに寄与し続けている。Kaitoやユスタス・コンケは10年以上も関係を結んでいるし、ギ・ボラットやフィールドのような現在の看板アクトもレーベルに新たなファンを増やしていることだろう。もちろん長い歴史の過程ではDJコーツェやマティアス・アグアーヨのように独立していく人もいたが、それでもオーブが作品を残したり、ガス・ガスやテラノヴァのような大物の加入があったり、何よりタラガナ・ピジャラマやコーマ、ケルシュといった新たな注目株もマイペースに送り込んでくるのだから目が離せない。そうやってコンパクトからリリースする際の基準についてミヒャエルはこう説明する。
「僕らは常に、他とは比べようがない唯一無二の音を持つ、何かユニークなものを探しているんだ。僕なんかは、30秒聴いただけで、その音がコンパクトに相応しいか否かを言い当てられるよ。それは、純粋に個人的な嗜好による、すごくパーソナルな判断によるものだね」。
思慮深そうなミヒャエル
そして、21年目の展望についてはこうだ。
「僕個人としては、いくつかのリミックスに取り組んでいるところだよ。ひとつは日本の友達であるKaitoのため、もうひとつはブラジルのバンド、CSSのためのものなんだ。他にもオリジナルの音源にも着手している最中で……、コンパクトではもう2014年のリリース・スケジュールも組んでいるんだけど、来年もすごくエキサイティングな年になるってすでに断言できるよ。何と言ってもギ・ボラットやガス・ガス、そしてトリオラ(ヨルグ・バーガー)のリリースもあるしね」。
この特集ページでは、2007年にレーベルを取り上げた記事以降のリリースから、各アクトごとに1タイトルを選んで紹介している。彼らの審美眼から生まれたエキサイティングな記録のひとつひとつをぜひ楽しんで聴いてほしい。
▼関連盤を紹介。
左から、レーベル・コンピ・シリーズの最新作『Total 12』、ミヒャエル・マイヤーによるミックス・シリーズの最新作『Immer 3』(共にKompakt)
▼懐かしのコンパクト盤。
左から、オーブの2005年作『Okie Dokie It's The Orb On Kompakt』、DJコーツェの2005年作『Kosi Comes Around』(共にKompakt)
▼コンパクトの20周年記念コンピ。
左から、『20 Jahre Kompakt: Kollektion 1』『20 Jahre Kompakt: Kollektion 2』(共にKompakt)
▼ギ・ボラットの作品。
左から、2007年作『Chromophobia』、2011年作『III』(共にKompakt/OCTAVE)。来年には新作も控えているんだって!