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BURIAL

連載
360°
公開
2014/01/08   17:59
更新
2014/01/08   17:59
ソース
bounce 362号(2013年12月25日発行)
テキスト
文/ヌーディーマン


今度こそアルバムへの布石なのか……真打ちが新EPを投下!!



Burial_A



アイ・アム・ノット・ブリアル——私は、ブリアルじゃない。コード9やフォー・テットがその正体と噂される時期もあった(本人たちは否定しているが……)本稿の主人公は、『Burial』(2006年)、『Untrue』(2007年)をリリースして以降はいわゆる〈アルバム〉という体裁で作品を発表することを放棄しているようにも思える。〈ダブステップ〉という言葉がゼロ年代後半にはどういう意味で使われ、2013年も年の瀬となるいま現在どういう空気を纏っているのかは割愛するが……この正体不明の主人公はもはや少しも笑えない世界の消費主義社会を指しているのか、『Rival Dealer』と題された3曲入り30分弱の作品をリリースした。

トム・ヨークとフォー・テットのアレや、マッシヴ・アタックの帰還作を丸ごと再構築するプロジェクト(結局その全貌はまだ明かされていない)を経て、次の〈アルバム〉への高まる期待から誰もがその動向に注視したEP初作『Street Halo』。その表題曲では幽玄なブリアル節はそのままに、訛ったビートがそのサンクチュアリからハウシーに離れようとする兆候が、そのまだ見ぬ3枚目の〈アルバム〉への期待をさらに高めることに。その後、フォー・テットのレーベルにふたたび思わせぶりな作品を2枚残した2012年には、その〈アルバム〉をまだ完成させない『Truant』=怠け者という確信犯的なネーミングと共に舞い戻る。そこで鳴らされているのは、同年にリリースしたもう一枚のEP『Kindred』で試みられていた長尺でシネマティックな語り口を舞台に、さらに破綻した感情やビートを殴り書きしたもの。カップリングの“Rough Sleeper”ではいままで無縁に思えた陽射しで住処である濃霧に塗れたゴーストタウンを照らしてみせた。

ここまではなんやかんや想定内で、普通のマーケティングならこのまま〈アルバム〉が届くはず。と誰もその3枚のEPを消化できないなか、滅多に口を開かないブリアルは自身の新たな作品に真摯な言葉を添えている。

「このEPは心を込めて作ったから、気に入ってもらえると嬉しいよ。収録曲は、虐げられた人々のために作った」。

ジャングルやインダストリアルの第何波に寄せて聴くのも興味深いが、もうブリアルはそういう土俵にすら乗っていないのではないか。

「彼らが自分自身を信じられるように、恐怖を克服し、諦めず、この世界のどこかには必ず味方がいるってことを伝えるためにね。天使が思いやりの ない人間や、暗い時代、自己不信から彼らを守るために送る呪文みたいなものだよ」。

その不敵な笑みは、ホントかウソか。レイヴ・カルチャーへのレクイエムから何回目かのサマー・オブ・ラヴがまさに神々しく蘇生する“Come Down To Us”をその耳で聴いて確かめてみてほしい。



▼ブリアルのアルバム。
左から、2006年作『Burial』、2007年作『Untrue』(共にHyperdub)

 

▼ブリアルの近年のEP。
左から、2011年作『Street Halo/Kindred』、2012年作『Truant/Rough Sleeper』(共にHyperdub/BEAT)

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