日本で圧倒的なワーグナー演奏を示したマゼール、ロペス=コボスによるワーグナー集(3枚組)
今は亡き巨匠二人、ロリン・マゼール(1930~2014)とヘスス・ロペス=コボス(1940~2018)は、日本でのワーグナー演奏でそれぞれ圧倒的な感銘を与えたことで語り草となっています。
まずはマゼール。2012年10月にNHK交響楽団に出演し、当BOXのCD1に収録されている自らが編曲した『言葉のない「指環」~ニーベルングの指環 管弦楽曲集』を指揮し、大きな話題を呼びました。この作品はもともと1987年、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団から委嘱を受け編曲したものです。マゼールは編曲するにあたり、以下のような4つの方針を掲げました。
1:全体は自然に、切れ目なく続いていくようにせねばならない。そして、物語の筋に沿い、《ラインの黄金》の最初の音に始まり、《神々のたそがれ》の最後の音で終わらねばならない。
2:曲のつなぎ目は、和声の面からも、時間配分という面からも正統的で不自然にならないように、そして曲同士のテンポの対比も、作品全体の長さと釣り合いの取れた状態にせねばならない。
3:もとの作品のうち、「声楽なしで」書かれた音楽はそのほとんどを使う。歌のある部分で、欠くことのできない重要な旋律は加えるが、その箇所は、歌の旋律が他のオーケストラの楽器で重ねて演奏されていて、聴き手がその歌を「想像できる」部分か、(稀なケースではあるが)完全に楽器で置き換える部分とする。
4:すべての音符は、ワーグナー自身が書いたものだけに限る。(以上、広瀬大介訳)
この時のベルリン・フィルとの演奏はテラークによりセッション録音され、テラークならではの自然な音場の優秀録音であることも相俟って、CDは大ヒットしました。まさにその録音がCD1なのです。
CD2は、その3年後、演奏会やレコードでしばしば単独で取り上げられる楽劇『ワルキューレ』第1幕の全曲を、マゼールが当時音楽監督を務めていたピッツバーグ交響楽団とともにセッション録音したものです。ちょっと昔のヘルデンテノールを思わせるクラウス・ケーニヒの味わい深さ、美しく力強い歌声をもつソプラノのスーザン・ダンの熱演も聴き物です。
CD3の序曲&前奏曲集で指揮をとるスペインの名指揮者ロペス=コボスは、1987年10~11月のベルリン・ドイツ・オペラ来日公演で『ニーベルングの指環』全曲の日本初演の指揮を務めたことで、日本のワーグナー演奏史上、永遠にその名が刻み込まれることとなりました。この公演はバブル期ならではの高額チケットだったにもかかわらず、日本全国からワーグナー好きが客席につめかけ、熱っぽい雰囲気の中で上演が行われました。ステージにタイムトンネルを据え、そこから登場人物たちを出入りさせて時空間を舞台上に再現したゲッツ・フリードリヒ(1930~2000)の秀逸な演出もあり、観たものに永遠に消し難い鮮烈な印象を与えました。その7年後に、彼が音楽監督を務めていたシンシナティ交響楽団と録音したのがこのアルバムで、ワーグナーの音楽への造詣の深さと豊富な歌劇場での上演経験が生きた、壮麗にして生命力にあふれた演奏を味わうことができます。
(タワーレコード 商品本部 板倉重雄)
【参考画像】収録各ディスクの米テラーク初出時のジャケット写真
【曲目】
[CD 1](TT:69分40秒)
ワーグナー:言葉のない「指環」~ニーベルングの指環 管弦楽曲集(マゼール編曲)
『ラインの黄金』より(14分47秒)
「かくてラインの「緑色のたそがれ」が始まる」
「ヴァルハラ城への神々の入城」
「地下の国ニーベルハイムのこびとたち」
「雷神ドンナーが岩山を登り、力強く槌を打つ」
『ワルキューレ』より(12分42秒)
「われらは彼の愛の目印を見る」
「戦い」
「ヴォータンの怒り」
「ワルキューレの騎行」
「ヴォータンと愛する娘ブリュンヒルデとの別れ」
『ジークフリート』より(6分15秒)
「ミーメの恐れ」
「魔法の剣を鍛えるジークフリート」
「森をさまようジークフリート」
「大蛇退治」
「大蛇の悲嘆」
『神々の黄昏』より(36分33秒)
「ジークフリートとブリュンヒルデを包む愛の光」
「ジークフリートのラインへの旅」
「ハーゲンの呼びかけ」
「ジークフリートとラインの娘たち」
「ジークフリートの死と葬送行進曲」
「ブリュンヒルデの自己犠牲」
【演奏】
ロリン・マゼール(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
【録音】
1987年12月1、3、4日、ベルリン、フィルハーモニー
[CD 2](TT:61分11秒)
ワーグナー:楽劇《ワルキューレ》第1幕
【演奏】
ロリン・マゼール(指揮) ピッツバーグ交響楽団
ジークムント:クラウス・ケーニヒ(テノール)
ジークリンデ:スーザン・ダン(ソプラノ)
フンディング:ペーター・メーフェン(バス)
【録音】
1990年10月1-2日、ピッツバーグ、ヘインズ・ホール
[CD 3](TT:76分55秒)
ワーグナー:序曲&前奏曲集
楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第1幕への前奏曲(10分51秒)
歌劇《リエンツィ》序曲(11分48秒)
歌劇《ファウスト》序曲(11分40秒)
歌劇《さまよえるオランダ人》序曲(10分40秒)
楽劇《トリスタンとイゾルデ》前奏曲と愛の死(17分29秒)
歌劇《タンホイザー》序曲(14分26秒)
【演奏】
ヘスス・ロペス=コボス(指揮)
シンシナティ交響楽団
【録音】
1994年3月21-22日、シンシナティ・ミュージック・ホール
カテゴリ : ニューリリース | タグ : ボックスセット(クラシック)
掲載: 2019年02月06日 00:00