スペシャル鼎談!! 鈴木惣一朗 × 土岐麻子 × さかいゆう
アメリカのポップ・ミュージック界を代表する偉大なる作曲家、バート・バカラック。彼のペンによる美しい楽曲の数々を、様々なシンガーがララバイ=子守唄としてカヴァーしたコンピレーション『雪と花の子守唄』がリリースされた。本作の魅力や制作中のエピソード、バート・バカラック作品の魅力……などなどのトピックについて、プロデューサーである鈴木惣一朗と、参加アーティストである土岐麻子、さかいゆうの3人にたっぷり語ってもらった。
洗練と野蛮というか、対極的なものが共存している
――まずはアルバムに参加されたお二人に、レコーディングの感想をお伺いしたいのですが、さかいさんは惣一朗さんとのレコーディングは初めてですよね。どんな感想をもたれました?
さかいゆう(以下、さかい) 変わった人だなあって(笑)。頭のなかにもう音ができてるから、その音をやって欲しいのはわかるけど、周りがそれに合わせるのが大変、みたいな。しかもそれが子供みたいだから(笑)。
鈴木惣一朗(以下、鈴木) よく見てますね。ブライアン・ウィルソンじゃないけど、スタジオは砂場みたいなもんだから。砂場遊びの快感って、お城を作って〈はい、できました〉っていうんじゃない。それを壊して、また別の物を作ったりするのがおもしろい。レコーディングもそんなつもりでやってます。
さかい とにかくこっちは惣一朗さんの頭のなかにできているものについて行くのに必死。だから〈もう知らない、歌ってるだけ〉って(笑)。
――土岐さんはいかがでした?
土岐麻子(以下、土岐) 惣一朗さんとは『りんごの子守唄〈白盤〉』以来で、今回が2回目なんですが、前回ご一緒したときには、ゆう君と同じ印象を持ったんです。「なんて作業の速い人なんだろう」って。最初にどんな感じか確認するために軽く歌ったら、「もう(このテイクで)いいから」って言われて(笑)。そんなにスタジオの時間がないのかしら?って(笑)。
鈴木 スタジオの時間もないんですが(笑)。
土岐 いや、そうじゃないんだなってことが、時間を重ねるごとにわかってきましたね。とにかく、「もうこれでいいから」とか「あと1回やろう」とか、惣一朗さんの判断は早くて明確なんです。
鈴木 二人ともこうやって話をしててもリズムがあるじゃない? 普段のリズム。僕は歌うときもそれでいいと思ってて。特にこの〈子守唄シリーズ〉はね。だから、みんな仕事を発注されて歌を歌いにくるんだけど、僕は仕事のつもりは全然ないんで。さっきも言ったように砂場だから。砂場でちょっと知らない子と遊んだりするじゃない? だから(シンガーを)追い込まないように、お喋りしてるような感じでって思ってるんです。だとすると、テイク1、2ぐらいが一番いい。砂場でそんな何時間も遊ばないじゃない? 近所の知らない子と(笑)。
――それは、アーティストの〈素〉を大切にする、ということですか?
鈴木 僕がアルバムに呼んでる人たちは、普段の話してる感じが好きな人。例えば細野(晴臣)さんもそうだけど、普段のおしゃべりが音楽みたいに聴こえるんですよね。さかいくんでも土岐さんでも普段からそんな感じのアルバムを作ってるし、僕だったら余計そうしたくなっちゃうので、歌い込む前にもう終わる。歌になる直前、ちょっと語弊があるかもしれないけどトーキングに近い状態のもの。みんなミュージシャンとしてすごく歌えるのはわかってるんだけどね。でも歌い上げる前にもう終わり、っていうのは、〈子守唄シリーズ〉をやり始めたときから〈このスタイルで行こう〉って決めてたことなんです。〈子守唄シリーズ〉はお話をしてるぐらいの感じで、声高にならずに終わる。聴く人はお喋りを聴きながら眠ってもらえればいいって。
――おしゃべりの心地良さ以外に、このお二人を選んだ決め手はありますか?
鈴木 フェロモン。
土岐 フェロモン(笑)!?
鈴木 ホルモンか? どっちでもいい。ホルモンがあってフェロモンが出てる人。そこが、ちょっと『りんごの子守唄』とは違う人選。土岐さんのように続投してる人もいるけれども、今回はフェロモンが出てる人を選びました。というのは、バカラックって非常に男っぽい部分と女性的な部分が共存している希有なメロディーメイカーだと思ってて。洗練と野蛮というか、対極的なものが共存している。例えば土岐さんなんかは感じているかもしれないけど、バカラックの曲は綺麗なのにすごく男っぽいゴツゴツした部分がある。だからこそ何度も聴けるんじゃないかなって。そこがバカラックのマジックだと思うんです。そのフェロモンみたいなものが二人にはある。例えばさかいくんは女性的な感じがあるし、土岐さんのなかに男性的な部分を感じるわけです。僕はそういう両極が共存してる人が好きなので、今回はそういう人を選ぼうと。
――土岐さんとさかいさんにとっては、バカラックのイメージはどんなものだったんですか?
土岐 〈正統派〉というイメージだったんですよ。私、バカラックについてそんなに知らなくて。ほんとに有名な曲しか知らなかったんですよね。だからアルバムに収録された曲を聴いて、知らない曲がいっぱいあるなって思いました。
さかい 僕は大好きだった。ベストばっかり3枚ぐらい持ってます。曲、ものすごく被ってるんですよ(笑)。2、3年おきに買うんですけど何が入ってたとか覚えてないから。
――じゃあ、今回歌われた“Alfie”もご存知だったんですね。
さかい 僕から歌いたいって言ったんです。どれだけ難しいかもわかんなくて。
鈴木 あのとき、直接さかい君に電話したんだよね。「好きな曲、何?」って訊いたら、「“Alfie”」って言うからさ。へえー、あんな難しい曲を……と思って。じゃあ、やってもらおうかな、とちょっとサディスティックな気持ちでお願いした(笑)。
さかい なんかね、好きなんですよ、あのリズムが。
鈴木 確かに、さかいくんには合ってるよね。
さかい なんか、うねってるというか。