インタビュー

Rei Harakami(5)

すぐ寝れる音楽を作りたい

――でもそこには行かなかったというのは、自分の本質はこれなんだと思い定めた?

ハラカミ ……そうだなあ……『lust』を作っていた時期に、すでにyanokamiとかも陰で始まってた、というのもあったかも。いい加減なものは作れないと思ってたのかもしれない。

――冒険ができないってこと?

ハラカミ いや……ある種もっと型破りというか……まあ要は『red curb』の頃はまだ悪意みたいなものがあって、でも『lust』では、それはなくなってるっていう。

――何に対する悪意?

ハラカミ 周りの状況に対する。

――なんで俺を認めないんだっていう?

ハラカミ ふふふ(笑)。そういうことも含めて……まあそっちの方向でやれることもあったんでしょうけど、リミックスやらなんやらやっているうちに、そういう悪意が削れていったというのはあるかもしれないですね。

―― 一種のデトックスだったと。

ハラカミ かもしれないですね。実際、自分で聴いてて気持ちいい音楽しか作れなかった。

――じゃあ自分の音楽は聴き返すほうですか?

ハラカミ だと思いますよ。比較的自分の音楽で感動できるタイプなんで。打ち込みのいいとこはそういうとこだと思いますよ。肉体使ってないから。声帯震わすとか、身体使って演奏するとか。肉体的な行為が入ってくると、作ってるときは楽しいんだろうけど、聴き返すのが辛くなってくる感覚があると思うんですよね。(打ち込みは)作ってるとき、すでに第三者的な感じがしてるんですよ。

――ああ、自分の感覚は反映されてるんだけど、そこにひとつ別の回路が介在してる。

ハラカミ 僕はただ命令を出してるだけなんで。実行するのはプログラムだから。

――そういう微妙な距離感みたいなものに抵抗がある人もいるわけですよね、同じ打ち込みをやっていても。できるだけ自分の肉体感覚に近づけたいという。

ハラカミ うんうん。そういう人はよりダンス・フロアに近づいていくんじゃないですか。

――ああ、なるほどね。

ハラカミ でも僕はそっちに行かなかったから。

――『lust』はご自分でもすごく納得のいく仕上がりだということですが……。

ハラカミ いつ遺作になっても問題ないっていう。

――いやいや(笑)。心構えはそうでしょうけど、現実には次のアルバムはもっと期待されてると思うんですが。

ハラカミ うん……なかなかね……手はいつでもつけてるんですけどね。なかなかこう……。

――じゃあ構想は……。

ハラカミ あるっちゃある……でもあまり(構想は)練らないですね。でも『lust』以降はyanokamiもやってるし、サントラもやってるし、当時自分のなかにあるものはそういうところで出したりしてるんで。

――自分がソロでやることと、人と一緒にやることをはっきり分ける人もいますね。

ハラカミ うーん……仕事の仕方は一緒ですからね。ただリミックスとかプロデュースは、すでにコンセプトがはっきりあるわけで、それに沿ったものを作っていく。そこから漏れちゃうものがソロとかに帰結していくのかなと。

――掬いきれない自分の感覚ですよね。それは何?

ハラカミ うーん、それが言語化できたら苦労はしないと思うんですけど。結局僕は音楽を作って世に出すことで、やっと社会とコミュニケートできてるタイプの人間なんで……いつも思うのは、すごく地味な、すぐ寝れる音楽を作りたいなと(笑)。それは結構いつでも思ってますね。気がついたら終わってて、「もう一回聴こう」ってなるような。「また寝ちゃったよ!」みたいな(笑)。授業がつまんなくて眠いとか、そういうのじゃなくて。

――子守歌みたいな。

ハラカミ うん。気がついたら気持ちよく寝ちゃった、みたいなことはいつも考えてますね。

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掲載: 2009年03月19日 18:00

更新: 2009年03月23日 15:01

文/小野島 大