インタビュー

iLL

スーパーカー時代以来、久々に砂原良徳とタッグを組んだニュー・シングルから垣間見える、アーティスト=iLLの上品さと頑固さ。ポップ・ミュージックの光と闇、オプティミズムとペシミズムとの間を行き来する彼の背景にあるものとは?

今年に入ってから出してきたシングルは、ポップの一つのカタチ

  iLL=ナカコーの活動を追いかけていると、とても痛快な気持ちになると同時に、もどかしい気持ちになったりもする。ポップ・ミュージックの光と闇、あるいはオプティミズムとペシミズムのコントラストを、さも当然のようにしっかりと音楽へ落とし込もうとしている姿勢に共感を覚えつつも、ストレートにポップ・ミュージックの神髄を突いてくるわけではない――大衆にまったく媚びることのない、斜に構えたクリエイティヴィティーにもどかしさを覚えたり……。でも、それがiLLなのだ、ということを、iLLとしての活動から3年ほどを経過したいま、改めて感じる。ナカコーが共感するアーティストとして頻繁に名前を挙げるデヴィッド・ボウイのかつての姿のように、いっそもっと商才に長けていたら、と思う一方で、そこまで開き直り切れない上品さ、媚びずに伝えていこうとする頑固さが、この男のチャーミングなところだろうと思うのだ。

 砂原良徳と久々に組んだ、映画「ノーボーイズ,ノークライ」の主題歌でもあるニュー・シングル“Deadly Lovely”。スーパーカー時代の“YUMEGIWA LAST BOY”以来、久々のタッグとなるこのナンバーにも、ナカコーのそうした上品さと頑固さが垣間見える。光と闇、オプティミズムとペシミズムとの間を行き来するiLLの背景にあるものとは?

――昨年発表されたサード・アルバム『ROCK ALBUM』以降の、モードの変化から伺いたいのですが。

「延長線上というか、前のアルバムは短期間でサクッと作ったものだったんですけど、それと割と同じ感覚、プラス、前よりわかりやすく、という感じですね」

――短期間だったということに、やや反省点があったわけではない?

「いや、それはないですね。前は短期間で作ろうと思って作ったアルバムだったので。もう少し時間があったらどうだろう?というのが今回で、プラスして、さらにわかりやすくしてみたという感じでした。」

――わかりやすく、というのは〈ポップでシンプル〉というニュアンスでもある?

「そうですね。ポップという言い方をすれば、今年に入ってから出してきたシングルは一つのカタチであると思うし(笑)、極端にシンプルにしたいという意識もありました」

――〈たぶんポップであろう〉というのは、そういう風に受け止めてほしい、という希望でもあるの?

「そうですね。〈これはあまり難しく考えてなくてもいいでしょう〉という気持ちはありますね」

――ちょっと難しく捉えられがちなところにジレンマがあったとか?

「まあ、難しく受け止める人もいたらしいですけど、僕自身は、これは難しい、これは難しくないという意識で作ったことはないし、いま作っているものも、過去作ったものも、ベクトルとしていっしょなんだよね、という感じなんです。いままでだって、そういう人(アーティスト)いたでしょう? 同じテンションで作った人、いたでしょう? という思いがあるので」

――〈そういう人〉というと、例えば?

「(デヴィッド・)ボウイもそうだし、ルー・リードもそうだし、プリンスもそうだろうし、(ブライアン・)イーノだってそうだろうし。難しいとされるものと、わかりやすいとされるものが共存しているのがあたりまえでしょう?と。2010年になろうとしているいま、と(笑)。一応、ソニック・ユースとニルヴァーナが売れた時代があるんだから(笑)。そういう思いがずっとあるんですよね」

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掲載: 2009年07月29日 18:00

更新: 2009年07月29日 18:52

文/岡村詩野