インタビュー

Eccy 『Blood The Wave』 SLYE/エーライツ



  フル・アルバムとしては『Floating Like Incense』以来となる2作目。自身のミニ・アルバムはもちろん、環ROYとのダブルネームや外部のプロデュース/リミックス作なども経て、深化したビートの手捌き――その歩みのそもそものスタート地点を踏みしめるかのように、改めて大ネタを携えサンプリングに挑んだ冒頭の“Shape Of Diamond”ひとつにも、2年ほどの間にトラックメイクの密度を濃くした彼の作法がわかろうというものだ。続く“Lichium Council”も然り。リスニング・ヒップホップ的な側面が強かった繊細なサンプリング・ワークがフィジカルなグルーヴを獲得した同曲での飛躍は大きく、随所に渡って本作の核ともなっている。さらに、トライブ・コールド・クエストの“Lyrics To Go”を2009年の歌モノとして再生させたとでも言うべき“Low On Sunday”などを挟んで広がっていく彼のクラブ・ミュージック的な視点は、アルバムが後半に至ってより濃厚に反映。コズミックな奥行きをも湛えるそれは、叙情性溢れるリスニング路線と90年代後期のアンダーグラウンド・ヒップホップを橋渡ししていた作風を一気に更新してみせたものと言えるだろう。また、“Pierrot Le Fou”に見る思いつくままの鍵盤プレイは、アディクイットとの“Thug Bunny”に代表されるグッとこなれたそれからすればずっと手探りにも思えるが、そうした手探りにこそ、彼なりの新たな方向性へのヒントが隠れているに違いない。

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掲載: 2009年09月16日 18:00

更新: 2009年09月16日 18:01

文/一ノ木裕之

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