インタビュー

YOLZ IN THE SKY(2)

お前の思う4つ打ちは何や!?

――興味深いのは、最近のダンサブルなロックを志向するバンドって、だいたいが享楽的なノリを尊重していると思うんですよ。そんななか、ヨルズもダンサブルなんだけど、とにかくダークで異質(笑)。踊っていて楽しいのはもちろんなのですが、次第に不安になってくるようなダンス・ロックですよね。ア・サーテンレイシオやPIL、ディスヒートとかが持っていた不穏な魅力に近いものがあります。

柴田「政治的な思想性とかはまったく持っていないんですけどね。ただ、他のバンドがやっているようなことは、単純にやりたくないからボツなんですよ。メンバー同士、口ではいちいち言わないですけど、個人個人が思っているヨルズの音楽があって。それは昔から培われた〈友達ノリ〉が重要だと思いますね。〈それをやったらサムい〉とか、そういう感覚はメンバー全員まったく同じなんで(笑)」

――メンバーのなかで、誰がバンドの主導権を握るでもなく?

柴田「まとめ役は僕なんですけど、音の出しはじめとかは、逆にお互い言わないようにしているんですよ。〈こういうふうな曲やろうぜ〉とか、そういう話も一切せずにとにかく音を出す。ただ、今回はダンサブルな要素をもっと出したかったからドラムのビートを先に決め込んでいって、別で録りました。そこはいままでにはなかった要素ですね」

――実際に、ドラムの平瀬(晋也)さんにはどんな要望を?

柴田「〈お前の思う4つ打ちはなんや!?〉ですね(笑)。そういう感じで、そこから出てきたものに合わせて曲を作っていったと。普段もレコーディングの前も音楽の話とか特にしないので、出す音で会話するという感じなんですよ。〈音楽とは〉とか、そんなこと語ってもお互いにしゃあないというか(苦笑)。僕たちにとってはあまり重要じゃないというか。育った環境も、聴いてきた音楽も、通過してきた文化もほぼ同じなので、良い悪いの感覚はみんないっしょなんです。そこは信用しているところで。たとえば、イヴェントとかに出演した時の対バンに4つバンドが出てたとして、絶対に僕たち4人が選ぶ〈良いバンド〉は一致しているんです。そういう感覚的なことが大事かな?って」


――プロデューサーとして参加されたPANICSMILEの吉田肇さんは、今回のアルバムにおいてどのような役割を担われたのでしょうか?

柴田「とにかく、アルバムに漂う雰囲気作りですね。DAFのアルバムとか、YMOの『テクノデリック』とか、あのへんの作品に漂うムードと同じものを作ってもらいました」

吉田「あまり最新型のサウンドにはならないように意識しましたね。コニー・プランクの作る音がすごく好きなのですが、ウルトラヴォックスの『Vienna』とか、ああいう〈当時の技術で狙った未来サウンド〉の魅力を『IONIZATION』にも出したかったんですね。具体的には、ドラムにミュートがかかっていたり、ゲートで切るタイム感だったり。そういう要素をドラムとベースにしっかりと施して当時の音を再現して、マスタリングでリマスターするというような音作りに挑戦してみました。僕も『テクノデリック』が大好きで、リマスターされた音源を聴きながら〈こういう音が作れたらなぁ〉なんて思っていたんですよ。それで、今回エンジニアとして参加してくれたのが僕のいとこで、彼はノイ!とかカンとか、ジャーマン・ロックが大好きで。自分の家をスタジオとして改造しているので、僕たちは24時間使えるんですよ」

――素晴らしい環境ですね。そのスタジオに行けば、ノイ!やカンのようなクラウト・ロック・サウンドが24時間作れると。

吉田「そうなんですよ。今回、ヨルズのみんなとレコーディングの前に話し合って、〈ドラムとベースの音は俺に録らせてくれ〉と言って、やらせてもらったんです。だから今回、僕は柴田君と萩原(孝信/ヴォーカル)にはほとんどノータッチで。その代わり、ドラムはミュートのかけ方からタムの位置、スネアの位置まで全部変えて録音していったんですよ。エンジニアにゼロセットを聴かせて、〈このタムの音! これが欲しいんだ〉といって作ってもらったり。そこから先の上ネタはどうぞ自由にやってくれと(笑)」

――それはあきらかに前作と違う要素ですね。

柴田「こういう作り方は初めてでしたけど、バッチリやなぁって(笑)」

――改めて、この『IONIZATION』を完成させたことで得られた達成感って、どんなことでしたか?

柴田「まず、今回はテクノとかの要素を採り入れながらも、絶対に人力でやろうというのが目標だったんですよ。結果的に、打ち込みではできないことが人力だからこそできた、というのが達成感ですね。このアルバムの人力感は、かなり気に入っています」

――そこまで人力にこだわる理由は、何だと思いますか?

柴田「やっぱり人間ならではの温かみとか、気持ち悪さとか、そういうものじゃないですかね。人間性が音に乗るというか。そういう生っぽさは好きです。この生々しい、バンドっぽい雰囲気は、打ち込みでは絶対に出ないものだと思いますね。あと、僕たちの活動ってライヴが基本だから、ライヴで全部再現できないとなぁというのはありますね」

――ライヴで再現できなければならない、というのがヨルズの楽曲のルールとか?

柴田「いや、そういうもんではなくて。きっと、ライヴからバンドが始まっているからなんですよ」

――あ、なるほど。あくまでもヨルズの基盤はライヴであって、その延長にレコーディングもあると。

柴田「今回についてはそうですね。たまにね、CDで聴いていたバンドのライヴを観たら、〈何も再現できてなくてショボッ!〉みたいなことってあるじゃないですか(笑)? ああいうのはイヤなんですよ。だから、レコーディングの時も4人で鳴らせるもの以外は作らない。まあでも、次はどうなるかわからないですけどね(苦笑)」

▼文中に登場した作品の一部を紹介

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2009年11月04日 18:00

更新: 2009年11月04日 18:47

文/冨田 明宏