cro-magnon(3)
音楽の聴き方がもう病気(笑)
――では、ここから全曲解説をお願いしたいんですが……まずはフレディ・ハバードのカヴァー“Red Clay”を。
大竹「この曲は十何年前からやってたんだけど、レコーディングの日にいきなりやってみようっていうことになって、リハを一切しないでパッと録った。その時だけの空気感っていうのは出てると思う。録音物っておもしろくて、〈せーの〉で録ったものに刻み込まれてる何かがあるんだよね。後から自分で気付かされることもあるし」
――続くハービー・ハンコックの“Tell Me A Bedtime Story”はいかがでしょう?
大竹「これもすごくいい曲だなと思ってて。昔からいろんなヴァージョンがあるけど、ここではスタンダードに演奏してみたらすごく格好良くて。それぞれのパートをちょっとずつ変えたぐらいでギリギリにシンプルにやった感じ。オレたちの演奏力は大したことないからさ(笑)、原曲に忠実にシンプルにやることで元の良さが引き出されてくるんだよね」
――〈シンプル〉というキーワードは今回の他の曲にも共通していますね。
大竹「そうだね。まずはシンプルに作っていって、そこから足す必要があれば足す感じ」
――そこはオリジナルといっしょ?
大竹「うん、基本的には」
コスガ「足したことでグルーヴが出るか出ないか。出ないんであれば足さないほうがいいだろうし」
――その意味では、今回のカヴァー・アルバムにはcro-magnonの本質みたいなものが案外出てるのかな、という気もしたんですよ。
大竹「そうそうそう!」
コスガ「プラス、原曲の軸の部分も見え隠れするというか。こんなベースラインだったのかっていう驚きっていうかね」
――その次がジャクソン5の“I want you back”。前回は彼らの“Never Can Say Goodbye”をカヴァーしていましたが、やはりマイケルに対する思いは強いんですか。
大竹「アイズレー(・ブラザーズ)とかカーティス(・メイフィールド)の時代に入る前の、もう少しカラッとした60年代のブラック・ミュージック。その雰囲気が今回は欲しいなと思って」
コスガ「マイケルもいなくなっちゃったし、今回はぜひやりたいなと思ってましたしね」
――続いてはパトリース・ラッシェンの“Remaind Me”。
コスガ「これはもう、グルーヴですね」
大竹「本当に黒人のシンプルなグルーヴ。これもいろいろとアレンジしてみたんですけど、オリジナルのベースラインとドラムをシンプルに合わせてみたら、自分的にもカチッときたところがあって。大ネタってこの曲のことを言うんじゃないかな」
――ただ、シンプルであればあるほどグルーヴを出す難しさがあるのでは?
コスガ「ありますね」
大竹「でも、考えてたらできないから。この曲だって本当に教科書的なドラムなんだよ、俺じゃなくても誰でも叩けるぐらいの。ただ、オリジナルの土台になってるドラムとベースの重なり、それが黒いんですよ。やっぱり俺らはこういうのが好きなんだろうね(笑)」
――レコーディングにも気を使ってるんですか?
コスガ「ただ、3人でやる時の形は確立されてるから、どういう音で録りたいのか、みんな前もってイメージしてるんですよ」
大竹「録る時の音を作っちゃって、あとは何にもしない。打ち込みの音も好きだけど、生の音をイジるんじゃなくて、生音をうまく録れば問題ないから。Loop Junktion(cro-magnon結成前に3人が所属していたバンド)の時はすげー細かいとこも気にしてたんだけど、そこまで気にするんだったら機械がやったのと同じだからね。少しズレてるのが人間だし。開き直ってるわけじゃないんだけど(笑)、そういう考えになってきた」
――確かに今回のアルバムも音がいいですよね。
コスガ「いいですよね! ハイの広がり具合がすごくいいし、ひょっとしたらアナログよりも天井抜けてるんじゃないかっていうぐらい」
大竹「でもさ、そういう音楽の聴き方をしてる俺らってだいぶ病気なんだと思う(笑)」
コスガ「病気やろうね(笑)」
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