インタビュー

cro-magnon 『cro-magnon plays』 ラストラム



  2006年、渋谷Roomでcro-magnonのライヴを初めて観た。彼らがデビュー・アルバム『cro-magnon』をリリースしたばかりの頃だ。その狭いフロアのなかで、いくつかのオリジナル曲を披露した後、中盤にハービー・ハンコック“Rockit”やインクレディブル・ボンゴ・バンド“Apatche”といったナンバーを3人でダイナミックに演奏していく姿があった。ライヴで観るそのカヴァー・メドレーは熱気に溢れていて、周囲で身体を揺らす人たちが〈彼らは音楽を、グル―ヴをよく知っている〉という確信を深め、身体を弛緩させていくのが見てとれた。新譜をかけ続けて調子を上げたDJが家掘りしたクラシックスをフロアに投げ込んだ時のような、スリルと迫力がそこにはあった。

 ダンス・フロアを行脚するバンドは沢山がいるが、そのなかでcro-magnonがひとつのブランドになっているのは、このBボーイやダンサーたちとの間に築いた信頼感にあるのだと思う。そしていまや多彩なのリスナー層に知られることとなった彼らがそのルーツを開陳するのがカヴァー企画、2008年の『Mellow out&Acoustic』であり、今回の『cro-magnon plays』だろう。

 3人のプレイヤーの巧さ、黒さ、シンプルなグル―ヴが際立つ全8曲。フレディ・ハバード“Red Cray”、パトリース・ラッシェン“Remind Me”やハービー・ハンコック“Tell Me A Bedtime Story”などでは、マッドリブによるイエスタデイズ・ニュー・クィンテットのようなユル気持ち良いグルーヴを感じる時もあるし、ジャクソン5“I Want You Back”やスライ&ザ・ファミリー・ストーン“If You Want Me To Stay”あたりの定番からはハービー・マンやジミー・スミスのソウル・カヴァーのようなジャズ・マナーに支えられた品の良さを聴き取れたりも。また、『III』での“Windy Lady”に続く〈Bボーイ・クラシックス・オブ・山下達郎〉からの選出である終曲の“ダンサー”は、スウィートバック(バンドであるシャーデーからシャーデー・アデュを除いた3人)がやるようなレゲエAOR調になっているのも興味深い(そのシャーデー“Sweetest Taboo”も原曲のアーバンな色彩をうまく引き継いだカヴァーになっている)。

 30分弱とLPレコード片面にギリギリ収まる位の長さもいい塩梅で、繰り返し聴きたい好カヴァー盤だ。

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掲載: 2009年11月18日 18:00

更新: 2009年11月18日 18:12

文/リョウ 原田

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