LUNKHEAD 『VOX e.p.』
結成10周年を経てなお、安住できる現在ではなく激動の未来をめざす意識が迷いなき快作を生んだ。LUNKHEADの6曲入りの新作『VOX e.p.』は、前作『ATOM』の流れを受け継ぎながらもさらに熱く、パワフルに、開放的に、ロック・バンドとしての芯をとことん図太く提示した作品となった。新たなスタートラインに立ったバンドの現状とサウンドについて、胸のうちを曝け出した小高芳太朗(ヴォーカル/ギター)の〈声〉をぜひ聴いてほしい。
〈LUNKHEADらしさ〉をさらに高められた
――今回のアルバム、すごく良かった。バンドが一丸となった突進力と音の開放感が、これまでの作品のなかでも最高だと思います。前作の『ATOM』とジャケットのアートワークが似てるけど、これは前作の続編というふうに捉えていい?
「そうですね、前のアルバムと繋がってる作品なんで。一昨年の夏ぐらいに『ATOM』を作りはじめる段階で、シングルをちゃんと出していこうという話をしてたんですよ。結局は配信という形になったんですけど、〈シングル曲を作るぞ〉っていうモードになってたんで、アルバムの候補の曲も一個一個しっかり派手なものが揃ったんですよね。でも11曲しか枠がないし、ほかの曲とのバランスで漏れた曲もあって」
――曲の良し悪しではなくて。
「そう。だから『ATOM』には入らなかったけど、メンバーもスタッフも思い入れのある曲が結構あったんですよ。それで、スタッフから〈入らなかった曲で作品を作ってみたらどう?〉っていう意見が出て、そこから『VOX e.p.』が始まったんです。だから、もともと曲自体はあったんですけど、(今回アルバムとしてまとめるにあたって)すごい変わりましたね。〈ビフォーアフター〉ぐらい変わった」
――具体的にはどういうふうに?
「まず、『ATOM』には平和な雰囲気のものを入れたくない、ギリギリな感じにしたい、っていう意識があったんですよね。だから、平和なもののなかに、いかに邪悪さを持たせていけるか、みたいな作業だったんですけど、今回も例えば“音のない部屋”は、最初はものすごい平和な、優しい感じの音になっていたのをあえてブチ壊して、ギターもドラムも歪ませて。そしたらすごくいい感じになりました。『ATOM』では、〈LUNKHEAD的なサウンドメイキング〉をひとつ手に入れた感じはあったんですよ。〈LUNKHEADらしさ〉ってずっと言ってきたけど結局よくわかんなくて、『孵化』の時には〈いちばん尖っていた頃の自分たちを取り戻したい〉という気持ちがあったんですけど、それが吹っ切れて、次の『ATOM』が作れたんです。結局自分らしさって、頭で考えることじゃなくて、俺たち全員が楽しめるかどうかなんですよね。〈うわ、これすげぇカッケーじゃん〉って思える音が、結局自分たちらしさになっていくと思ったんで」
――なるほどね。
「そういうなかで、『ATOM』では揺るぎないLUNKHEADらしさというもののひとつを手に入れられて、その力によって『VOX e.p.』に入ってる曲たちをより高められた感じがあるんです。“シューゲイザー”なんて、最初はアホみたいに明るい曲だったんですよ。でも、もっと尖ったものにしたくて、どんどんテンポも速くなって、マイナーコードが増えてきて。時間の余裕がなかったことも、逆に良かったんじゃないかな。切迫感というか、緊張感があったから。録りには6日間しかかかってないですから」
――歌も入れて?
「歌も入れて。がんばりましたね。それがすごく良かったんですよ。俺は『ATOM』にすごい自信があったんで、〈絶対にこれで売れる〉と思ってたんですけど、いままでと変わらなかったんですよね。新しい人(リスナー)を巻き込んでる感じもあんまりなくて、すごくガッカリしちゃって、去年の夏ぐらいはモチヴェーションが落ちちゃって。何やっても無駄なんだな、とか思ってたんですよ。実は、そういうなかで作っていたんですよね、『VOX e.p.』は」
今回出来上がった音で、モチヴェーションが上がってる
――聴いて、そんな感じはまったくしないけれども。ものすごい生命力の迸りを感じるし。
「そうなんですよ。迷ってるヒマがなかったから集中できた気がする。メンバーのなかにも、ただ〈やりたいようにやろう〉っていう空気があって。だからいいんですよね。俺も後で出来上がった音を聴いて、〈俺らまだ、全然行けるな〉と思いましたし。ここからまた始まる感じというか、10周年が終わって、レーベルも変わって、また6曲入りの作品からスタートするというのが――」
――最初っぽいよね。
「最初っぽいなと思ったんですよ。いろんなことがハマッた感じがあって。だから、このアルバムこそ売れるんじゃないかと思ってます(笑)。なんかね、もう10年バンドをやってると――昨日、CLUB Queの新年会で店長と話してたんですけど、俺らぐらいの世代の人たちっていちばん谷底なんですよ。40(歳)までやってるとみんな〈すげぇ〉って言われるじゃないですか。フラワーカンパニーズ、the pillows、怒髪天とか。で、俺らより下は下で、イキのいいのがいっぱい出てくる。で、10年選手ぐらいがいちばん、シーンとしてはもっさりしてるというか(笑)。〈だからこそおもしろい〉って店長は言うんですけどね。解散だ、脱退だ、って俺らの周りでも嫌な話ばかり聞くし、仲のいいバンドと飲む時にも、暗い話題が多いんですよ。それで〈お互いがんばろうぜ〉っていう話になるんだけど、そういう時に、〈がんばって続ける〉みたいな話になりがちだった気がするんですよね。〈がんばって動員を維持する〉みたいな、続けることが目的に変わってきちゃうところがあるんです、10年ぐらいやってると。でも、それじゃイカンなと、すごい思いましたね。C.C.Lemonホールで思いました」
――去年の11月の結成10周年ライヴね。
「やってる時に思ったんですよね。〈こんなとこで終わってはいけない〉って。やるからには、上だけ見てなきゃ駄目だなって。最初はそうだったんですよ。客は全然いないけど、それは世の中のほうが悪い、俺らの音楽は世界一カッコいいって信じられた気持ちを、持ち続けなきゃいけないんですよね。たぶん、10年やってる俺らみたいなポジションだと、〈自分たちのほうが悪いのかな?〉って思っちゃう時が、みんなあると思うんですよ。〈こうやったほうがウケるかな〉とか、俺らもそういう時があったし。そう思っちゃうのは仕方ないんですよね。経験を積むと、人間だから嫌でも学習しちゃって、ついそういうことを考えちゃう。だけど、酸いも甘いも――俺らは、〈甘い〉はあんまり経験してないけど(笑)――噛み分けたなかで、それでも自分を信じてる人たちが、結果、40(歳)まで続いてるんだなと思うんですよ」
――そのとおりだと思う。
「フラカンの圭介さんも、俺らぐらいの年にやめようかどうか迷ったらしくて。フラカンはセールス的にも勢いがすごかったから、ダメージはもっと大きかったかもしれないけど、いまフラカンのライヴを見てると、そういう迷いとか全然ないですよね」
――いまがいちばんすごいでしょ。
「そうですよね。続けることを目的にしないで、上を見てる――そういう人たちだから、結果として続いてるんだと思う。順番はそっちが先なんだ、と俺も思って、今回出来上がった音で、すごいモチヴェーションが上がってるんですよね」
――いまの話を聞いて、『VOX e.p.』の持つものすごい生命力の源がわかった気がする。そして、この音を求めている人は絶対にたくさんいると思う。
「あとはどれだけ触れてもらえるかですよね。話が戻っちゃうんですけど、俺らもこれまでいろんなことをやってきていて。デビューした頃の尖った感じに対して“カナリア ボックス”とか“夏の匂い”とか、〈僕ら、こういう引き出しもありますよ〉みたいなこともやってきたけど、そうすると、そこで入ってきた人にとってはそっちがメインになるんですよね。LUNKHEADと言えば“カナリア ボックス”でしょ、いやいや“夏の匂い”でしょ、みたいな感じで、トータルのイメージが散漫になってるな~というのは、何年か前から思っていて。それを『孵化』と『ATOM』で仕切り直せた感じがして、『VOX e.p.』でまたリフレッシュして、〈こういう感じで見せて行きましょう〉みたいな。いまはメンバーもスタッフも全員が同じ方向を向いてるんで」
これからへの決意表明
――ところで『ATOM』を作る前後には、ドラムの龍くんがバンドを脱退するかもという事件があって、結局いまのスタンスとしては、彼は別のこともやりながら続けているわけだけどレコーディングには参加して、ライヴは――。
「やれるところはやってですね。本当はそのままバンドだけやっててほしかったですよ。ぶっちゃけ、しんどいところはあります。でも龍は、〈辞めなくて本当に良かった〉って言ってますね。最初は〈音楽をスッパリやめる〉って言ってたけど、いまは〈音楽をやれてるありがたみをすごい感じてる〉って」
――龍くん、今回すごくいい詞を書いてるじゃない? 1曲目の“WORLD IS MINE”。
「なんかやっぱり、あの人ね、結構神経が細やかなんですね」
――いや、どう見てもそうでしょ(笑)。
「大味なところもあるんですけど(笑)。すぐ抱え込んじゃう性格だけど、そういうなかでこの曲は、ひとつ見つけた答えなんだと思うんですよ。ひどい時代だ、って世界中で叫ばれてるけど、〈そんな世界をどう見るかは自分自身だから〉って。『ATOM』のなかの“トライデント”は、龍がバンドを辞めるつもりでいた時に作っていた曲で、結局辞めないことになってから歌詞を書いたので、あれはあれで決意表明だったんですよね。これから何が始まるのかまったくわからないけど、そのなかに飛び込んでいくんだ、という決意が“トライデント”にはあって。で、実際に飛び込んでからのこの半年間の結晶が“WORLD IS MINE”なんですよ」
――この曲は新しいLUNKHEADのテーマ曲になれると思う。
「これはね、やっと慣れてきましたね、ライヴでの演奏が(笑)。大変なんですよ。でもそのぶん、突き抜けた感はありますよね。しんどさの代償を払ってるぶん」
――今回は、最初と最後にすごく大事な曲が入ってるでしょ。“WORLD IS MINE”と“echo”。
「“echo”だけ、『ATOM』を出した後に作りました」
――この曲だけサウンドがまったく違うよね。ミッドテンポで、打ち込みも入って。
「まったく違いますね。これはたぶん、いままでだともっと平和なアレンジになっちゃってたと思うんで、サウンドはパキッとさせて。なのに、みんなの優しさがすごい出てますよね。歌詞はモロに俺の子供のことで、アタマ4行がまずあって、あとはオマケみたいなもんです(笑)。この曲は、なんとなく出来たんですよ。それで、去年の夏休みにやった龍のイヴェントで歌ったんです。それを龍が聴いて、〈すごくいい詞だからアルバムに入れたい〉って。本当は入らない予定だったんですよ。6曲全部ぶっ飛ばして行こうという予定だったんですけど、でも“WORLD IS MINE”から始まって“echo”で終わることで、作品としてすごく固まったなと思うんですよね。いまとなっては入れなきゃ駄目だったんだなと思うし、入るべくして入ったんだなという感じはしてます」
〈声の力〉が生み出す世界
――そして全体を括るタイトルが『VOX e.p.』。これはどういう理由で?
「全部の曲におのおのテーマがあるんですけど、そのテーマのなかで共通する世界を何か出したいと思っていて――今回は、全部の曲のなかに〈声〉という言葉が出てくるんです。声が持っている力、声というもの自体が、俺が『ATOM』で表現したかったテーマとすごいリンクしたんですよね。『ATOM』は原子という意味で、原子と原子がくっつき合って分子になって、それが僕ら人間みたいだな、というところからついたタイトルなんですけど、声というものも、人と人が繋がるために生み出されたものなんだな、と思って。安心したり、不安になったり、傷つけたり、救ったり、声にはいろんなことができて、でも声自体は別に善でも悪でもなくて、声でしかない。そんな〈声の力〉が生み出す世界を、6曲で作りたかったんですよね。だから『VOX e.p.』は、いろんな声の描く世界が詰まったアルバムです」
――なるほどね。
「そのテーマが見えた時に、すぐに〈VOX〉という言葉が浮かんだんですよね。『ATOM』の時もO(アルファベットのオー)を0(数字のゼロ)にして、0=零(レイ)=RAY(光線)というものとリンクさせたので、それは〈VOX〉にも繋げられるし、バッチリじゃんと思って。〈VOICE〉と〈VOX〉とどっちがいいかなと思ったんですけど、デザイン的に〈VOX〉がいいということになり、そして〈ボックストリートボーイズ〉にも繋がるという(笑)」
――またくだらないツアー・タイトルつけたね(笑)。まあLUNKHEADはいつもそこに命賭けてるけれども。
「相当、命賭けてますよ。これもすごい時間がかかったんですよね。いいアイデアが何も出てこなくて、会議ですごい険悪なムードで。どうすりゃいいんだよ、ってどんよりしてる時に、壮が〈……ボックストリートボーイズ〉ってつぶやいて、その瞬間に光がバーッと差し込んで〈キターッ!〉って」
――馬鹿だ(笑)。でも冗談としても秀逸です。
「『VOX e.p.』の情報より前にツアーのことを発表するから、〈ボックス〉とかけたいんだけど、それがわかるのは『VOX e.p.』のリリースが発表されてからなんで、そこのバランス感が難しかったんですよ。その言葉だけでまずおもしろくて、後で〈そうか、『VOX e.p.』とかかってたんだ〉って気付いてさらにおもしろいという、無駄なハードルがあったので」
――最高でしょ。これしかない。
「でも、そこがすごくてもね(笑)」
――アルバムも素晴らしいからいいんじゃない(笑)? ツアー、本当に楽しみにしてます。
「この時期はいつも一回は喉をやられるので、それが不安といえば不安ですけど。でも楽しみです。今回は対バンも多いし」
――去年が結成10周年だから、今年で11年?
「12年目ですね。えらいこっちゃですよ、30にもなるし。でも、まだまだヤングですよ……とは言え最近、悟がやたらオッサン臭かったりするんですけど。ギャグがね……(笑)」
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