PE'Z 『1・2・MAX』
1年半に渡ったpe'zmokuとしての意欲的な活動を経て、PE’Zより約3年ぶりのニュー・アルバム『1・2・MAX』が到着した。99年の結成から10年が経過した節目の作品と言える本作は、スピードとグルーヴを両立させた豊かなリズムとキャッチーなメロディー、そしてスリリングに絡み合う5人の演奏(と、ヒイズミマサユ機の叫び!)が堪能できる、痛快極まりない一枚に仕上がった。原点回帰と新たなチャレンジを同時に掲げ、独自のスタイル=侍ジャズの枠組みからすらはみ出しながらジャンルレスなグッド・ミュージックの道をひた走るPE'Z。さらにスケールアップした彼らの雄姿をその目と耳で確かめてほしい。
心置きなくいい曲を作ってください、俺はがんばりますから
――久しぶりですね、PE’Z名義の作品は。
Ohyama “B.M.W.” Wataru(トランペット)「オリジナルは3年ぶりですね」
――非常に痛快で、前向きで、スピード感たっぷりで、素晴らしいです。久々のオリジナル・アルバムということで、ここはひとつ勢いよく行きましょうという感じですか。
Ohyama「そうですね。明るく、元気に。PE’Z全開、っていう感じで行きたいなと思って、そういう曲を詰めこんだ感がありますね」
――その間にはpe’zmokuでの活動期間があるわけですけど、あれはPE’Zとはまったく違う活動だと言ってましたよね。活動中には。
Ohyama「違うんですけど、やってるのは同じ人間ですから、やっぱり影響はすごいあるというのが正直なところですね。あの活動があったおかげで今回のアルバムが出来た。それは間違いなく言えることですね。1年半の間にいろんなことを経験しましたし、いろんな広がりも感じられましたし、これを作ってみて〈ああ、あれがあったおかげだな〉というのはやっぱり感じますよ」
ヒイズミマサユ機(キーボード)「あそこでいろいろ学びましたし、エンターテイメント性みたいなものも上がったかなと。それが今回、ちょっと出てるんじゃないかと思います」
――メロディーの作り方ははっきり違うと言ってましたよね。ヴォーカルものを作る時には。
Ohyama「自分が吹かないというのがいちばんデカイんですよね。人に対してだと、100%責任感を持ってメロディーを作り上げなきゃいけないけど、自分で吹く時には、甘えちゃう部分も出てくるんですよ。〈メロディーがこんなに(途切れなく)続くと、ライヴで吹く時キツイな〉とか思っちゃうんですよね、どうしても。それでキーを変えちゃえとか、休符にしちゃえとか、けっこうあったんですよ。〈本当はこのメロディーがいいんだけど……〉っていう妥協が絶対に出てきちゃう。それを無視して作って、あとで自分が苦労すればいいやっていう、そういう作り方に変えざるを得なくなった。pe’zmokuをやったおかげで」
――ああ、なるほど。それはデカイですね。
Ohyama「デカイです。嫌なんですけどね(笑)。ライヴがユウウツです(笑)。マサユ機もさらにS度が増してきて、ヒドイんですよ。〈君の楽器はずっと弾き続けられるけど、こっちは息継ぎしないとダメだから!〉って言ってるのに、ないんですよ、息を吸う場所が。1ミリも。でも〈ここに吸う場所作らせてよ〉とか言ったら弱気になっちゃうから、〈いいよ、やるよ〉っていう強がりの連発になっちゃって、また頭が痛くなっちゃう(笑)」
――そんなこと言われてますけど、ヒイズミさん。
ヒイズミ「いやぁ、あの、そうですねぇ(笑)」
Ohyama「ただ、いろんな雑誌でいろんなバンドのインタヴューを見ても、管楽器の人は〈ピアノの奴が作る曲はキツイ〉って、みんな言ってるんですよ。だからマサユ機だけがSなんじゃなくて、楽器の特性上そうなっちゃうんだなって。だったら心置きなくいい曲を作ってください、俺はがんばりますからと。そういう感じになりましたね」
頭の悪い感じが想像できた
――それは確実にこのアルバムのメロディーの良さに繋がってると思いますよ。それと今回、曲のクレジットが全部PE’Zになってるんですけど、これはどういう?
Ohyama「マサユ機と俺がベースを作って、というスタンスは変わらないんですけど、今回は合宿でレコーディングをしたりとか、あと5人で作るというやり方に徐々に変えていこう、という意識もありまして。いままでもそういうやり方をしてる部分はあったんですけど、全面的にそうしましょうということで、今回はクレジットがすべてPE'Zになりましたね」
――合宿はどこでどのくらいの時間をかけて?
Ohyama「曲作りとベースのトラック作りを、去年の夏に、北海道で2週間ぐらい。森のなかにレコーディング・スタジオと合宿施設があって、このアルバムはそこ始まりです。仕上げには結局11月ぐらいまでかかったんですけど」
――まず1曲目の“Csikos Post ~クシコスポスト~”のカヴァーでいきなり意表を突かれたんですけど、この曲を選んだ理由は?
Ohyama「何かをカヴァーしようという話になって会議を重ねていて、一回まともな方向に行きかけたんですよ。クラシックをオシャレなアレンジで、みたいな。それをやめてこれにしました。元の曲に思い入れはないんですけど、やってみた時の頭の悪い感じが想像できたというか」
――頭の悪い感じ(笑)。運動会でお馴染みの曲ですよね。
Ohyama「やっぱり体育会系と、音楽とか芸術の文科系って本来は逆なんです。だから音楽やってる奴は、運動会とか大っ嫌いなはずなんですよ。でも俺はなぜか運動会大好きで育ってきました。音楽やってる奴はスポーツ万能じゃなきゃダメだっていう持論すらあるんですよ、昔から」
ヒイズミ「僕は小学校の運動会の徒競走で、1位が取れなくて本気で泣きました。校庭の真ん中で」
――ということは、すごい自信があったと。
ヒイズミ「そんなでもないですけど。球技だったらとりあえずできるかなと思います」
Ohyama「マサユ機にはいいポテンシャルを感じますよ。あとの3人は基本的に真ん中よりは下です(笑)。けど、できなくはない。一人だけダントツでできない奴がいるんですけどね、誰とは言わないですけど(笑)。でも5人で何かやろうということになるじゃないですか、運動でも何でも。みんな一生懸命にやるのが共通点で、だからいい仲間なんです」
――なるほど。“Csikos Post~クシコスポスト~”の話に戻りますけど、前半がスロウなジャズで、後半が猛烈に速い2ビート。大胆なアレンジですね。
Ohyama「この曲をやろうと思った時に、後半の部分が想像できたんで。真逆の部分も入れようということで前半のアレンジを考えて、アルバムのオープニングとして入れました。いままではまずありえない1曲目ですけどね。そこもちょっと今回は、10年目ということで変化をつけてみました」
ヒイズミ、シャウト解禁
――そして2曲目が“1・2・MAX”。アルバム・タイトルにもなってるくらいだから大事な曲ですよね。
Ohyama「シングルですよね、気持ちとして」
――曲中でものすごく目立ってるヒイズミさんの歌というかしゃべりというか、あれ、何語ですか。
ヒイズミ「ドイツ語です……いえ、意味はないです(笑)」
Ohyama「真面目にドイツ語で歌ってたら使いませんよ。ちょっと気が緩むと、一瞬アジアの匂いがするところもたまんないです。実際、3年前のアルバムの時には、マサユ機の声を使ってないんですよ、一個も。それまでずっと使ってたところをピタッとやめてみて、寝かせた結果、このアルバムが出来たという」
――今回、歌いまくってますね。叫びまくってると言ってもいいですが。
Ohyama「やっぱりいいなと思いますね。なんかね、歌手活動に影響があるから、PE’Zでの叫びは遠慮させてくださいっていう申し出がありまして」
ヒイズミ「ははははは」
Ohyama「それで4年寝かせました」
ヒイズミ「晴れて解禁です」
初披露したライヴとは思えなかった8曲
――“サクラロード~夢ノトオリミチ~”はいい曲ですね。PE'Z王道の一際切ないメロディーで。
Ohyama「日本のメロディーです。アレンジ的には、PE'Z必殺の偽サンバ。偽サンバは今年押していこうと思ってるんですよ、久々に。ブラジル人のお墨付きですから。“Hale no sola sita~LA YELLOW SAMBA~”っていうシングルを出した時、PVの撮影にブラジル人がダンサーとして来たんですけど、〈コレ、サンバジャナイネ〉って言われたんですよ(笑)。だから偽サンバです」
――次が“ミラクルサンダース”。とびきり明るくてファニーなムードです。
Ohyama「タイトルが曲を表してると思うんですけど、超高速メリーゴーラウンドみたいな感じです。一昨年、pe'zmokuの取材で名古屋のTV番組に出た時にメリーゴーラウンドに乗せられ、その上で取材っていう(笑)。ずーっと回ってるんですよ。それが長くて、完璧に酔いまして。メリーゴーラウンドもあれだけ回ると酔うというのが初めてわかり、その経験を活かして作った曲です」
ヒイズミ「〈大丈夫ですか?〉って訊かれて、〈大丈夫ですよ〉って言いつつ、ちょっとフラっと(笑)」
Ohyama「ずっと笑顔ですよ、もちろん。あたりまえですよ」
――素晴らしい(笑)。そして“くらむちゃうだー”。これはリズムがすごいです。何て言うんですか、この速いリズム。ドラムンベースでもないし。
Ohyama「何て言うんでしょうね。PE'Zを組んでいちばん最初の頃このリズムはなかったんですけど、いろんなものを採り入れていった時期があって、あれはインドネシアの民族音楽とクラブ・ミュージックを混ぜたやつだったかな、何とかっていうリズムがあるっていうのを友達に教えてもらって。とにかく高速だったんですよ。〈これをやろう〉っていうことになって、航さん(ドラムス)といっしょにそれを聴いて、開発したリズムです。そこから始まって、けっこういろんなところに登場してるんですけど、完璧にオリジナルですね」
――そして“万歳。”。これは理屈抜きで明るくノリのいい、笑顔になれる曲です。
ヒイズミ「ハッピーな」
――これはヒイズミさんのメロディーでしょう。
Ohyama「お義母さんがこの曲を聴いて、〈これはワタルくんの曲じゃないわね。だって明るいもの〉って(笑)。〈え~!? 何すかそれ!?〉って(笑)。誰の曲とか何も言ってないのに。〈そうですね~、はははは〉って言っときましたけど。それ以上深く話すと生活に支障が出てきそうなんで(笑)」
――おもしろすぎます(笑)。でもこの曲、ライヴの最後のほうにやるとすごく合いそうです。
Ohyama「実際このアルバムの曲、札幌で一回だけ、8曲全部やったんですよ。初めてやったのにお客さんの振りとかができてて、初めてのライヴに見えなかったですね。わかりやすいってことだと思うんですよ、ノリが。選んで良かったなと、間違ってなかったなと思いました」
――次が“花散れど我散らず”。これも和風な感じの切ないメロディーで、途中でスカのリズムになるのが楽しいです。
Ohyama「みんなスカ好きですから。いろいろ試した結果、それがいちばん合ったんでスカにしました。やっぱり楽しいですね」
――そしてラストが“Woo-ha!!”ですよ。こういう思い切りソウルフルなフレーズの曲って、いままでまったくなかったですよね。驚きました。
Ohyama「あえて避けてたっていうほど意識はしてなかったんですけど、気付いたら〈あ、なかったんだ〉っていう感じで。合宿中に作って、すごくいいなと思いましたね。ちょっとこの路線は引きずるかもしれないなっていう気がしてます。もともとソウルはすごい聴いて育ってますし、モータウンとかも好きですし。大好きなんですけど、それを直接PE’Zの音楽にあんまり反映させてなかったなっていう。たぶん何回も出てきては消え、みたいなことだったと思うんですけど、やっと形になったなという。10年かかったということですね」
――ヒイズミさん、こういうモロにソウルっぽい曲は?
ヒイズミ「大好きですね。僕もソウルとかファンクとか、70年代風の音の質感は大好きなので。いままでのPE'Zのリズムの録り方とはちょっと違うテイストというか、そこがいいなという気がします」
Ohyama「この路線でもうちょっと、いろいろやってみたい気はしてますね。去年はトリビュート盤だとか、その前にはリミックス盤が2枚出て、いろんな人といろんなことをしてきましたが、そういう場にもヒントがあるんだな、って思います。それが新しく発見されると嬉しいですね」
当時の気持ちをどういまに活かすか
――先ほどから10周年という言葉が出ていて、99年結成ですから正確には去年だったわけですけど、原点回帰みたいな気分はあります? このアルバムには、かつてのインディーズ時代を彷彿させるような勢いのある曲がズラリと並んでいて、余計にそう思うんですが。
Ohyama「思い返すと、あの時のムチャさや勢いはいつまでたっても必要だなと感じますから、意識はしてます。普通、テンションというのはどんどん落ちる一方なんですよ、人間というのは。ドキドキする感覚は最初がいちばん高い。そこをなんとか持ち上げるためにいろんなことを考えて、新鮮にする努力は必要だと思うんですよ。〈10周年だね、良かったね〉で終わってたら何の意味もなくて、当時の気持ちをどういまに活かすかということが大事だと思うんですね。だから〈今回は昔の感じが入ってますね〉とか言われると、嬉しかったりしますよ」
――入ってますよ。それにハッピー感みたいなものは、全然いまのほうが増してると思います。
Ohyama「ハッピー感はいいですね。いま、ハッピーな顔してる人が少ないですから、世の中に。ハッピーに行こうというのはあります。音楽にはそういう力があると思いますね」
――そして3月には東京で怒涛の10連続ライヴがあって、4月からは全国5か所のツアーもあります。どんな気持ちで臨みますか。
ヒイズミ「毎回〈MAX! MAX!〉って叫ばなきゃいけないと思うと大変です(笑)。でもがんばります」
Ohyama「10連戦は、10周年の始まりの助走というか、『1・2・MAX』というアルバムの試運転的な部分ですから。来てくれたお客さんと共にライヴを作っていく期間なんですよね。そこで仕上げて全国ツアーに向かっていくという感じです。完璧なライヴを見せますよ」
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