矢沢永吉 『TWIST』
まだまだやれる、いやこれからだと言わんばかりの快進撃は続く。またしても凄いアルバムを仕上げたYAZAWAがそこにいた――還暦を過ぎてもなお輝く彼の、これまでのキャリアも年齢別に辿ってみよう!
わかりやすい音楽って大事ですよ
矢沢永吉の〈再デビュー〉作『ROCK'N'ROLL』からわずか10か月、「いまの音楽とはちょっと違って、ピンピンと跳ねてて、そして青臭い」とみずから評するニュー・アルバム『TWIST』が届いた。確かに、このアルバムを聴いて最初に思ったのは──はなはだ失礼な話ではあるが──〈あ、俺がいま中学生だったら、これできる!〉だった。
「それがいいんですよ! 中学生がバンド組んで〈これコピーしたいな〉〈これだったらできそうだ〉と思えるサウンド、絶対そうじゃなきゃいけない。でもそれがやがて、作り手の格好良さの押し付け――〈どうだいお前らにはわかるまい、このコード進行!〉とか〈わかるまい、このギタリストの凄さ!〉とかそういうところに行った段階で本末転倒だよね、違うとこ行っちゃってるんだから。音楽ってそういうところで聴かれてるんじゃないんだよね……というのがやっとわかるような感じでしたね。5~6年くらい前に僕も、ガツーン!とその壁に1回、ぶつかったんですね。でもそれ、自然な流れかもしれないですよね……作り手はやっぱり、音にこだわったりしますからね、〈もっとあるだろ? もっとあるだろ?〉って。そのうち〈どうだスゲエだろ?〉っていう間違ったとこに行ってるワケですよ。僕も漏れず、そのなかのひとりだったと思いますよ。それをはっきり感じたのは、ここ5~6年くらいですかね。ちょうど時を同じくして〈ROCK IN JAPAN〉(2006年)に出たりしてますもんね。リスナーはいったい音楽をどのへんで聴いてるんだ?っていうことを感じたとき……俺はいったい何やってたんだ?と思ったりもしました」。
何度もキャリアハイを迎えたアーティストの発言であるということを考えると、その意味は重い。
「僕ぐらいの歳になって30何年もやってますと、〈リスナーがどのへんで聴いてようがいまさら関係ないよ〉って言おうと思えば言えるわけじゃないですか。〈もういいよ、十分やったし〉と。どっこい矢沢は貪欲なんですね。〈……だよなあ!〉って思った時にはもう、いてもたってもいられない。だからそのとき、〈直球ど真ん中のロックンロール・サウンド作りますよ!〉って言ったんです。それが去年の『ROCK'N'ROLL』ですよ。これが出来て自分の車で聴いたときに、来たな!と思いましたね。そしたら案の定良い反応が来た。わかりやすい音楽って大事ですよ、ねえ? リスナーやオーディエンスに妥協してるって意味じゃなくてね。やっぱり作り手がどうのっていう生意気なことじゃなくて、音楽ってやっぱり……ストン!って入ってきてホロリと泣きたいじゃないですか。メロディーがいいなあとか、声質がキュンってくるよとか……ねえ? そういうふうになりたいです」。
そして実際、この『TWIST』は前作にも増して胸キュン度が高い。のっけから“サイコーなRock You!”ですよ! タイトルや詞には短距離ランナーのような瞬発力の強い言葉が選ばれている。メロディーやアンサンブルもロックンロールのオーソドキシーに忠実でありながら矢沢流のスパイスにピリッとくすぐられる、という毎日食べても飽きのこない家庭料理のような味わいだ。
「矢沢の曲の作り方は変わりましたね。矢沢のメロディーとして残ってる曲、“ニューグランドホテル”“ラスト・シーン”“YES MY LOVE”“SOMEBODY'S NIGHT”──もういっぱい書いた。だからこれからの矢沢は、リスナーのすぐそばにいるようなメロディーを書きたいなと思ってます。そのためには構えないほうがいい、ということがわかったんですよ。それがいまの矢沢には大切なんです」。
ああ現役で良かった!
〈構えない〉という点で、個人的に思いがけずグッときたのはクロージング曲“「マブ」”だ。あるきっかけで疎遠になった友人(と書いて〈マブ〉と読む)と変わらぬ友情を確認する風景(作詞には矢沢も参加)が歌われるごくごくシンプルなシャッフル・ナンバーではあるが、そのシンプルさゆえに年月の重みやら友情というものが持つ強い引力やらさまざまなものが自分と重なり合ってしまったのだ。しかも本作の白眉であるロッカバラード“HEY YOU…”を受けてのこのクロージングだ。矢沢本人も迷いに迷ったうえでの曲順だと言っていたが、これはもう大正解。バラードに浸る余韻もアリだと思うが、再生が終わって自分と曲がシンクロした時点でもう、このアルバムは〈矢沢の〉ではなく〈俺の〉アルバムになっていた。
「今回、作り終えて僕が思ったのは、〈ああ! 音楽やり続けて良かったなあ!〉ってこと。いま60歳、9月で61ですよ! 60代に入って現役でライヴをやれて、武道館ライヴを発表したらもう……毎年そうですけど、チケットは大騒動になりそうな雲行きなんです。これだけたくさんの人がチケットを欲しがってくれている、もういまかいまかと『TWIST』のことを待っていてくれる──改めて僕は思いましたね、ああ現役で良かった! そして音楽を職にしてよかった! 僕はまだステージに立てる! そんななかで僕は、60にもなってこんなアルバムを作れる……そう思いましたね」。
矢沢のいまの音楽は、現在に、そして未来に向けて鳴っている。これまでの子供たちは父親のレコード棚・CD棚で矢沢を発見してきたが、いまやCDショップやラジオで見つけ出すことだろう。そしてふと思う。僕が子供の頃、ロックンロールにシビれるきっかけを作ってくれたチャック・ベリーやボ・ディドリーは、あのときいったいいくつだったんだろう?──いま目の前には、ワニ革のスーツでビシッとキメた矢沢永吉が立っている。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年06月17日 19:30
更新: 2010年06月17日 19:30
ソース: bounce 321号 (2010年5月25日発行)
インタヴュー・文/フミヤマウチ