インタビュー

The Mirraz 『TOP OF THE FUCK'N WORLD』

 

畠山承平が綿密にシミュレーションしているバンドの未来は、果たしてどこまで現実のものとなるか——彼らなりのしたたかさをしたたかにしたためた新作が完成!

 

 

The Mirrazのことを単なるアークティック・モンキーズのパクリバンドと見る人はそろそろ少なくなったことだろう。確かに、彼らはパクリバンドであることをみずから公言している。しかし、アークティック・モンキーズを土台に、そこから派生するさまざまな音楽を分析~咀嚼し、あくまで日本のポップ・シーンで鳴らそうとする彼らは、非常に高い志を持った真摯なるパクリバンドなのだ。昨年リリースされた2作目『NECESSARY EVIL』、今年の4月に〈0作目〉と位置付けられている2006年の自主制作盤『be buried alive』のリイシューに続くニュー・アルバム『TOP OF THE FUCK'N WORLD』で彼らが目をつけたのはストリーツ、そしてビートルズである。

でも基本はアークティック・モンキーズ!?

「ストリーツの“Heaven For The Weather”を聴いた時に、このリフがビートルズだったらおもしろいんじゃないかと思って、それをやったのが“サーチアンドデスとロイとグローリアとアレとソレとコレと”なんです。『NECESSARY EVIL』の時に出来てたんですけど、この曲が次のアルバムのテーマになるんじゃないかと思って入れなかったんですよ」(畠山承平、ヴォーカル/ギター:以下同)。

同じくビートルズ風のリフものである“医学的に言うと全部オッケー病という病名”や“オーライオーライ”があれば、“Tomorrow Never Knows”のリズムを引用したという“ハッピーアイスクリーム”があったりと、本作には確かにビートルズを参照した点が多いことがよくわかる。では、なぜいまビートルズなのだろう?

「海外でロックンロール・リヴァイヴァルがあって、じゃあ日本人でキンクスとかザ・フーを新しい形に持ってくるっていうのを誰かしてるかな?って思ったら、してないなって。それを自分のやり方でやろうとしたら、たまたまストリーツとビートルズだったって感じ。もしかしたらM.I.A.とキンクスだったかもしれないし。まあストリーツにしてもM.I.A.にしても、結局アークティック・モンキーズがヒップホップの何を吸収してきたかってことのヒントとして聴いてるだけだから、基本的な発想はアークティック・モンキーズなんですけどね」。

アルバムのオープニングを飾る“TOP OF THE FUCK'N WORLD”は、M.I.A.をを意識したというリズムとアークティック・モンキーズを踏襲したヘヴィーなギター・サウンドに乗せて、現代の狂った世界で生きることを歌っている。

「もともとこういう気持ちは持ってたんですけど、たまたま〈Grand Theft Auto IX〉っていうゲームをやってて、主人公の口からこの言葉(TOP OF THE FUCK'N WORLD)が出てきた時に、〈これだな〉って思って。ただ〈こうなればいいのにな〉とかは特になくて、実際俺が何か提案したところで世界は変わらないっていうことのほうがテーマに近いかもしれない」。

本作でも早口でまくし立てられる畠山のリリックは、時にシリアスに、時にユーモアたっぷりに、たくさんの固有名詞を織り交ぜつつリアルな日常を描いている。なかでも、歯医者に行って〈少年ジャンプ〉を買って帰る、ただそれだけのことをビーチ・ボーイズ風のロマンティックな曲調で歌う“ただいま、おかえり”が新鮮だ。

「〈The Mirrazらしい〉っていうのが常に頭のなかにあるから、言葉数を増やそうっていうのは考えてますね。“ただいま、おかえり”は、本当に1か月ぐらいこういう生活が続いたんですよ(笑)。これはやっぱりストリーツをよく聴いてて、ヒップホップってこういう一日のストーリーをそのまま書いちゃうみたいのやるなって思って、そういうのをイメージして作ったんだけど、結局……〈ONE PIECE〉が終わったら嫌だなって曲になりました(笑)」。

また、“Let's go DISCO、そしていつもキスを”も新たなチャレンジだったという。

「意味のない歌詞を書きたいと思って。意味ありげに見えるけど、仮歌の気持ちいい部分に無理矢理日本語を乗せて作っただけなんです。何で〈Let's go DISCO!〉かっていうと、the telephonesが〈DISCO〉って言ってるけど、彼らのいいところって無意味さだと思うんですよ。メッセージ性はもちろんあると思うんですけど、〈歌詞がいい〉とかで売れるものが多いなかで、そうじゃないthe telephonesを観て音楽的だなって思った……ような気がする(笑)。あとはアークティック・モンキーズの“I Bet You Look Good On The Dancefloor”的な意味も付けたくて」。

売れる方程式

そんなthe telephonesらと並んで、もはや日本のロック・シーンにおいて確固たる地位を確立しつつあるThe Mirrazだが、他の日本のバンドの音楽性にはほとんど興味がないという。

「でもRADWIMPSとBUMP OF CHICKENは勉強のために聴いてます。自分と同年代で、いまの若者にいちばん人気があるから。売れていく方法というか、流れを勉強しようと思って。日本で売れるっていうのはこういうことかって」。

そう語る畠山だけに、The Mirrazが売れるまでのヴィジョンも出来ているようだが、それにはアークティック・モンキーズに対する愛情がいくらか邪魔をしているのでは?

「次は今回のビートルズっていうテーマには合わなかった、もっとポップな曲がたくさんあるんで、それを中心とした『TOP OF THE FUCK'N WORLD』と対になるアルバムをまず作ろうと思うんですね。その後に、俺の売れていくバンドの方程式ではめちゃくちゃいい曲が1曲ポンと出てきて、それでブレイク!みたいな感じなんです。だから、そこで暗いアルバムを作るのは売れていくアーティストとしてエゴが強すぎるんだけど、いまはアークティック・モンキーズの3作目(ストーナー・ロックの影響を受け、ダークにへヴィーに進化した『Humbug』)をパクリたい気持ちがめちゃくちゃあるから、じゃあ明るいアルバムと暗いアルバムの2枚同時かなって。ブレイクした後だったら、(暗いのを作っても)全然オッケーなんだけど、それまで待っちゃうとアークティック・モンキーズが4作目を出してるだろうから(笑)」。

では、アークティック・モンキーズを土台とした曲作りの方法自体を変えることはあり得ないのだろうか?

「取っ払えないと思うんですよね、結局。自分のなかでそれを取っ払ったら何も作る気なくなるし、意味なくなっちゃうかなって思ってて」。

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年09月08日 17:59

ソース: bounce 324号 (2010年8月25日発行)

インタヴュー・文/金子厚武