INTERVIEW(2)――変わらずミーハー精神で
変わらずミーハー精神で
それらのインスト群のなかでも、フロアに最大の狂騒を呼び込むであろうキラーなトラックが“WOW”だ。この曲のプロデュースを務めているのは、彼らにとって「音楽を始めた頃からの神的存在」(Chaki)だという大沢伸一。リリースを重ね、着実なステップアップを遂げたいまだからこそ、このクラブ・シーンの第一線に立ち続ける大ヴェテランへのオファーを決断したのだろうし、凶悪なグルーヴを放出するズル剥けた仕上がりは、両者ががっぷり四つに組むことで成立し得たものに思える。
「大沢さんにはいまだにご挨拶くらいしかできないです。同じ立場どころか不可侵領域のような感じで。ただ、いままでは他のアーティストさん、特にトラックを作っている方といっしょにやることを躊躇する気持ちがあったのですが、このタイミングだからこそお願いできたんだとは思います」(Emi)。
それにしても、これらのダンス・トラックはポップ方面への歩み寄りが一切感じられず、そこがなんとも痛快だ。一方で、ヴォーカル楽曲は徹頭徹尾ポップな装いを見せており、特に“Kasha & Marta”はダンス色を排した異色のワルツに仕上がっている。エレクトロ系シンガーとして認知されているimmiをヴォーカルに起用し、彼女の歌声が持つアンニュイな魅力を最大限に引き出しているのも素晴らしい。
「“Kasha & Marta”は、いちばん最初に作りはじめた曲なんです。ほぼ無の状態だったから出来たのかも。どうせやるならフロア度外視の3拍子で、あとは余計なことを一切考えずに、音とメロディーを入れていきました。この曲のおかげで、その後の制作でも振り切れたところはありますね」(Emi)。
こうしたポップ方面の楽曲のなかでも抜きん出てキャッチーな輝きを帯びているのが、UKソウルの金字塔として知られるクール・ノーツ“Make This A Special Night”のカヴァーだろう。この不朽の90sクラシックを〈いま〉取り上げることは、ミーハーを自任し、この瞬間のフレッシュネスに賭けることも厭わないTHE LOWBROWSならではのアイデアだと思う。
「今後、さらに世界的にも旬になりそうなキーワードといえば、グラウンド・ビートとUK産。そして現在進行形で旬なキーワードのアーリー90sと言ったらこの曲、というような直感的な采配です」(Chaki)。
本作において、これまで以上の変貌を遂げ、2010年のダンス・ミュージック最前線を更新してみせたTHE LOWBROWS。だが彼らの出発点であったエレクトロ・シーンもまた、変化の季節にあることは間違いないだろう。例えば、このジャンルのパブリック・イメージであるところの〈ビキビキでドシャーッ〉なサウンドを、シーンを代表するアーティストやレーベルの作品で耳にする機会は少なくなってきている。それぞれの変化はシンクロしているのだろうか?
「シーンもいまは細分化されてきていますね。ただシンクロはどうでしょうか……前作同様、まだわかりません。ただ、DJは混ぜ物なので、あまりシーンから逸脱してもよくないし、流されすぎたくもない。相変わらずLOWBROW(ミーハー)精神で作って、程良いところに収まっていたいです」(Chaki)。
▼『EMOTION』に参加したアーティストの作品を紹介
左上から順に、大沢伸一の2010年作『SO2』(avex trax)、immiの2010年作『Spiral』(エピック)、Tinaの2010年のシングル“PRIDE”(エピック)、12月1日にリリースされるAISHAのデビュー・アルバム『AISHA.EP』(ARIORA JAPAN)、Zombie Disco Squadの楽曲が収録された2010年のコンピ『Valeu: Celebrating 5 Years Of Man Recordings』(Man)
▼“This A Special Night”が収録されたコンピレーション・アルバム