INTERVIEW(3)――誰にでもあてはまる
誰にでもあてはまる
――Nishiharaさんの音楽はヒップホップ的な打ち込みのビートがありつつ、すごく生っぽいニュアンスもありますよね。実際にどういうふうに作っているのかが聴いていて気になるんです。
「鍵盤はかなり自分で弾いてるんですよ。ギターもちょっとは入れてます……難しいパートは無理ですけど(笑)」
――打ち込みとかサンプリングも使いながら、ほぼひとりで作り上げてるわけですか。
「ただ、基本的にサンプリングは使ってないんですよ。別にサンプリングという手法が悪いと思ってるわけではなくて、もっと自由に曲を作りたいという気持ちがあって。サンプリングしたいフレーズがあったとしても自分で弾き直して使ってます」
――サンプリング・ミュージックはどうしてもネタ元に縛られますけど、Nishiharaさんの音楽はもっと自由に展開しますもんね。ポップ・ミュージック的というか。
「サンプルを探す行為もすごくクリエイティヴだと思いますけど、ベースラインを変えたり、コードを変えたりすることが難しい。自分で弾くことでもっと自由に作ることができますからね。いま思えば、サンプリングしないこともコンセプトのひとつだったのかもしれません」
――ただ聴こえ方はサンプリング・ミュージックに近いところがありますよね。それは音の質感が似てるからかなと。
「音の質感もメロディーと同じくらい重要なものだと思うんですよ。クラブ・ミュージック以降、特にそういう感覚が強くなったのかもしれませんけど。ヒップホップのサンプリング・ソースって60~70年代のジャズやソウルが多いですけど、個人的にもその時代の音がすごい好きで。特に今回は70年代の機材をできるだけ集めて作ったんです。ヴィンテージな機材で作った音をコンピュータで編集するっていうハイブリッド感がおもしろいし、いまっぽいかなと」
――今回の『Rugged Mystic Jazz for TALISKER』はシングル・モルト・ウィスキー〈TALISKER〉にインスパイアされたコンセプト・アルバムということですけど、これまでのアルバムとは異なる位置付けのものですか?
「ファーストとセカンドは何のお題もなく自由に作ったソロ・アルバムでしたけど、今回は〈TALISKER〉というテーマに即した音を作ったので、姿勢はちょっと違いますね。なんというのかな……」
――〈外伝〉的な?
「ああ、そうですね(笑)」
――これまでの作品に比べて、音のヴァリエーションをかなり絞ってる印象を受けました。
「アルバムを作るにあたって〈TALISKER〉のことをいろいろ調べたんですけど、〈TALISKER〉側からもキーワードをいただいて、そのなかでいちばん大きかったのが〈Rugged〉という言葉だったんです。〈ゴツゴツした〉とか〈荒々しい〉みたいなイメージを指す言葉ですけど、その〈Rugged〉をどう浮き彫りにするか、自分にとって〈Rugged〉とはどういうものかを探っていくなかで、こういう音になった。その結果としてメロウだったり柔らかい感じの曲が弾かれたので、割と近いテイストの曲が揃ったのかもしれません」
――以前は楽曲によってラッパーをフィーチャーしてましたが、今回は全編インストですね。
「最初からインストにしようと決めてたんですよ。ヴォーカルが入ると、その人のパーソナルな面がどうしても前に出てしまう。今回は抽象的で誰にでもあてはまるようなイメージを伝えたかったんです」