INTERVIEW(2)――実験的な作品
実験的な作品
――今回の『So Much Soul』も、そうした変化を経た末の作品だってことか。
「音楽として純粋に聴いたときにどれだけの説得力があるラップなんだろう?っていう。すげえ美しいヒップホップであっても、それが音楽としてダサかったらダメだし、そのバランスは曲によってすごい考えましたね。わかりやすく言えば、曲のなかでセルフ・ボースティングしないとか、自分の名前を言わないとか、一人称じゃない詞の書き方とか、そういう細かいとこにもそれは繋がってると思ってるんですけど」
――ミニ・アルバムとして制作が始まったのはいつ?
「『SOUL SPIRAL』を出す頃にはもう制作がスタートしてて。でも、その頃作ってた曲は今回全然入ってない。自分をもう一回見つめ直したいっていうのがすごくあったから、その頃は次の作品に繋がるような曲はなかなか出来なくて、『SOUL SPIRAL』以前の惰性で作ってたような気がしてて」
――その頃はまだ迷いがあったんだ。
「前のアルバムはある意味あの時点での集大成。そっからまた同じように作ってって、今回も作り終えた時点での集大成となるアルバムとして最初は作りはじめてたんですけど、それじゃあ成長しないな、ってある時期にすごい思って。そういうなかで制作してても、急にラップが下手になったりとかなかなかないし、カッコ悪いビート選んだりとかもしないから、ある程度のクオリティーのものは、変な話、出来てしまう。そう思うと、やっぱ気持ちの部分、意識の部分がいちばん大事だなあっていうのはすごく思った」
――そこが吹っ切れてこの作品があるわけだけど、それを確信できた曲は今回収録されてるの?
「どの曲もとまどいがなくなってから作った曲ですけど、やっぱり“Special Thanks”ですよね。それが出来たのが今年のアタマぐらい。Bボーイ・マインド的にはリリックもフロウも、何から何まで全部自分でやって、歌うならメロディーも1から自分で作りたいって思ってたけど、こだわんのもやめてみようと思って。それも相手(プロデューサー)がBL(BACHLOGIC)くんだから委ねられるかなと思ったんですけど、スタジオ入ってトラック聴いて、2人でメロディーを作るみたいな。そこは、いわゆるTARO SOULだからこその自分らしさは簡単に薄まんないだろうと割り切って」
――キャリア的にもようやく落ち着いて自分を見ることができるようになったってことなのかもね。
「そうだと思う。一回信頼できる人の感覚を採り入れて何かを作ることで、いい部分がはっきりしてくるかなあとも思ったし」
――そういう共同作業的なやりとりは今回他のプロデューサーともあった?
「ほぼ全曲そうですね」
――例えば、具体的にアイデアをもらったようなことは?
「“Escape”で千晴と曲作ったときに最初はまんま歌っぽいことをやってたんですけど、〈サビはラップにしてみない?〉とか。あと、〈一拍目のオンのとこからサビ始めてみて〉って言われたこと。一拍目に言葉を置くっていうのはいままで一度もなかったので、〈あ、そうか〉みたいな。ブラック・ミュージックだと後乗りな感じだから一拍目に言葉置かないけど、やってみたら、自分になかった感覚だけど嫌いじゃなかったし、採り入れられた。それはけっこう小っちゃいことですけど、自分のなかでは革命でしたね」
――そうした一連のプロデューサーとの曲作りによって得たことは?
「自分の感覚をいい意味で疑いながら作っていく共同作業はいままで体験したことがないものだったから、歌い手としての何かを試された感じがすごいしたし、自分の〈らしさ〉と〈手グセ〉みたいな部分の境界線をけっこう引けたなっていう気もして。で、そこをはっきりさせたうえで、〈これがTARO SOULっぽいでしょ〉っていうところは強くしていけばいいし、フロウとか歌のメロの感じが自分っぽいけど新鮮じゃないなって思ったらバッサリ切るっていう。それが今回の作品を通してできて、自分ではけっこう実験的な作品とも思ってて」
▼TARO SOULの作品
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