INTERVIEW(3)――桃野という水戸黄門をどう持ち上げるか
桃野という水戸黄門をどう持ち上げるか
――続いての“California Sun, California Rain”はヒダカさんの楽曲ですね。
ヒダカ「桃野陽介をイメージして作った感じです」
――具体的に言うと?
ヒダカ「バカ(一同笑)。MONOBRIGHTが持っているバカバカしさって意外と伝わってないんじゃないかなって。特に『ADVENTURE』前後はシューゲイズ感がすごくあったし、“雨にうたえば”みたいな曲も良いんですけど、『monobright zero』とか『monobright one』ぐらいのときはもうちょっとバカバカしさがあったんで、そっち側に振り戻してあげないとって。まあ、バカってことです(笑)」
桃野「でも、これがいちばん歌いやすかったです。自分の曲より歌いやすいってどういうことだ、と」
ヒダカ「似合いすぎて恐かった(笑)」
――歌詞を書く際は、〈カリフォルニア〉っていうお題が最初からあったんですか?
桃野「ありました。それでWikipediaで調べたんです。元々はメキシコなんだ、あと(アーノルド・)シュワルツネッガー(が州知事)か、って。いい塩梅にいい加減な歌詞で楽しめればいいなっていう」
――〈アメリカに憧れた僕は/ストーンズを聴いた アメリカじゃない〉っていうところで爆笑しました。
桃野「実体験でそうなんで。アメリカの音楽を聴こうと思ってストーンズを聴いちゃった、っていうのがあったんで」
ヒダカ「メタル~ハード・ロック好きが、ツェッペリンをアメリカのバンドだと思ったり(笑)。そういうことはあるよね」
――(笑)そして、その次の曲のタイトルがまた、“この人、大丈夫ですか”という。
桃野「これも『monobright two』の“踊る脳”で採り入れてたスカっぽい、〈スチャスチャ〉っていうサウンドがアップデートされた、新たな感じが見えた曲ですよね」
ヒダカ「MONOBRIGHTのやる裏打ちの曲ってドメスティックな部分が強いと思ったんで、もうちょっと2トーンっぽくしよう、ってアレンジしていったんですよ。BPMもどんどん上がったし、オルガンもガンガン入れてくみたいな。いままでだと4人だからオルガンはライヴのことを考えてあんまり入れないとか、あるいは桃野がギターを弾かずに……みたいになってたと思うんですけど、今回はスペシャルズ編成みたいな。ホントはトースティングとMCのために、もう1人か2人、入れたいぐらい。そういうイメージ。レゲエにしてもスカにしても、裏打ちの曲って基本的にガヤの人数で勝負みたいな。ガヤがいっしょに盛り上がる感ってすごくいいじゃないですか。そういう意味では、タッキー以外の4人で盛り上がりながら(笑)」
――瀧谷さんは、盛り上がらなかったんですか?
瀧谷「盛り上がっては、いました(微笑)」
桃野「なんでそう含みを持たせるの(笑)?」
ヒダカ「(笑)この不器用さがたまらなくおもしろいんですけど、なかなか伝わらない」
――(笑)では、この曲はみなさんで盛り上がったと。
出口「原型みたいなデモを聴かせてもらって、そこから〈この曲の芯はどこなんだろうか〉って考えたとき、実はそこに、すごいMONOBRIGHTらしさがあるんじゃないか、という話になって。そこをもっと拡張していけばいいのか、って思ってたところにヒダカさんが入って、こういう切り口があるんだ、って気付けたというか。ガヤ感ってこれまではなかった部分だから、すごいおもしろかったし、新鮮でしたね」
――松下さんは?
松下「デモはもうちょっとメロウな感じだったんですけど、『ADVENTURE』を作ってからは、もはや題材は何でもいいというか。4人のときもそうだったんですけど、モチーフと進行とメロがいいものであれば、5人で音を合わせてるだけで勝手に良くなるっていう不思議な現象が起きるんですよね。それはもちろん、ヒダカさんの力が強いんですけど、バンドでの曲作りがどんどん楽しくやれるようになってきていて、やればやるだけいいものが出来るなっていうふうになってるんで、それを象徴したような曲になったなと思います」
――前作の取材の時に、〈この音を出すためにこういう盤を聴いて、音像の勉強をした〉っていう話をされていたんですけど、今回そういう盤はありますか?
松下「スペシャルズを聴いたりもしたんですけど、今回は音像を作り込むことはあんまりなかったですね。自分が意識していないだけで、自然とできるようになってるんじゃないかなっていうのはあって。僕はけっこう音マニアなとこがあるんで、曲の構成とかにおいては桃野やヒダカさんが長けてるので任せて、僕は全員の出してる音を聴きながら〈こんな配置だったらおもしろいな〉とか、そこに合わせて自分の音がこれくらいだったらいい棲み分けだなとか、そういうことばっかり考えてましたね」
ヒダカ「いままではでーさん(出口)とまっつん(松下)で助さんと格さんだったのが、俺が入ったことで、まっつんはいい意味で、風車の弥七になった感じ。物語にフックをつける人みたいな。支柱を支えるところから一歩離れて、外側からいろいろ攻撃してくれる。だから、こっちものんびりやってたらダメだぞっていう、そういうアレンジになった気はしますね。でまあ、タッキーが由美かおるみたいな(一同笑)。桃野という水戸黄門をみんなでどうやって持ち上げるかっていう作業だと思うんですけど、いまは俺とでーさんが助さん格さんで、まっつんは外部からやんややんや、やってくれるんで、こちらとしてはすごいラクですよね」
松下「僕もラクになった(笑)」
ヒダカ「役割分担がよりはっきりした感じ。いままでは弥七と格さんを同時にやってたから。印籠だしたり風車を回したりで忙しい(笑)」
桃野「由美かおるはずっと由美かおるですね」
ヒダカ「ずっと風呂に入ってる(一同笑)。しずかちゃんか由美かおるかだと思うね」
――(笑)そして歌詞は、いわゆるストーカーものですが。
桃野「この歌詞、すごくいいって大喜びしてたのがでーさんで。〈でーさん、大丈夫ですか〉って感じです(笑)」
ヒダカ「いままでだったらストーカーをテーマにしちゃうと陰のほうに引っ張られちゃったと思うんですけど、真逆に陽のほうから攻めてみた。暗いことは明るく言うし、明るいことは逆にシリアス目に言うみたいな。そういうカードの切り方が一つできたんじゃないかなって」
――ちなみに出口さんは、この歌詞のどこを気に入ったんでしょうか。
出口「世界観はもちろんですけど、いま話に出た〈シリアスさのさじ加減〉がすごいいいなと思って。文字だけ追うと、とんでもないことじゃないですか。なんだけれども、それを俯瞰で見ながら、シリアスさに囚われていない感じがいいなって」
ヒダカ「世の中の9割ぐらいは、シリアスなことって他人にとっては逆に滑稽なことですからね。例えば高校野球で優勝するのって当事者にとってはものすごい大事なことですけど、負けて甲子園の砂を持って帰るってのは、われわれ野球をしていない人から見たら、滑稽だったりするときもあるってことですよね。別に俺たちがそう思ってるってわけじゃなくて。そういう俯瞰がこれまではできてなかったんだけど、俺が入ったからには、大体笑い飛ばそうぜ、って」