インタビュー

宏実 『MAGIC』

 

これは初夢? よりエモーショナルで率直に、アーティスティックで純粋に、虹色の歌と言葉がマジカルな進化を遂げたニュー・アルバムが到着!!

 

〈ようこそ my magic show 楽しんで the world of rainbow 呪文をかけましょう 幸せになる魔法を〉——宏実の新作は、催眠術をかけるかのように優しくウィスパーされるイントロで幕を開ける。

「音楽は人間が使える魔法。目に見えない物で人を癒したり、場の雰囲気を変えられるアーティストって魔法使いみたいだと思うんです」。

何度も自問を繰り返して作られた念願のセカンド・フル・アルバム、いや、愛に溢れた歌の魔法『MAGIC』が完成した。「いちばん身近なマジックの道具だから」という理由でトランプを手にしたジャケットには、リスナーと身近であろうとする思いも反映されているのだろう。

「今回制作の時に考えていたのは、前作『RAINBOW』よりいい作品がわずか1年半で作れるのか?ということです。でも、前作にこだわるよりも、新しい自分を開拓していくように進めたと思います」。

その才能をいち早く見い出したNao'ymtのリーダー作に参加した後、彼やU-Key zone、村山晋一郎らのサポートを得た『True Colors』(2008年)でデビューしている彼女。それに続く初のフル・アルバム『RAINBOW』(2009年)は、後にシングルにもなる“愛されたい”などが収められた充実作で、彼女の歌声をより広い層に浸透させることに成功した。今回の『MAGIC』でもT-SKやUTA、そして先述の村山晋一郎にU-Key zoneら気心の知れた面々が、前作同様に彼女をバックアップ。ライムに配慮したスムースな詞と虹のように美しいコーラス・アレンジが彼らのトラックに合わされば、彼女だけの魔法が生まれる。さらに今回はロミオやティアラ・マリーを手掛けたLAのチェックメイトが3曲を制作している点にも注目すべきだろう。

「彼らのアグレッシヴなビートに一発でやられました。逆にチェックメイト側も歌を聴いたらかなりテンション上がって、電話がきたくらいです。その結果、日本/アメリカっていう国境を越えて、いままでにない〈邦楽〉が出来たと思ってます」。

なかでもモダンなエレクトロ・ポップに仕上がったアップ“LOVE HANGOVER”は、カミカオルに詞曲を丸ごと委ねたことも相まって、いままでの宏実にない新鮮な出来だ。逆に「普段はトラックを貰って詞やメロをつけるんですが、“My Way”や“I Believe”は最初から自力で仕上げたんです。アイデアを存分に出せることに味をしめちゃいました(笑)」と、セルフ・プロデュースへのハングリーな姿勢も見せる。他にも、仲良しだという日之内エミを迎えた「ガールズトークを題材にしたちょっとおふざけ曲で、私がドM、エミがドS役で」という“More & More”など楽曲は多彩。箏奏者の実姉が弾いたフレーズをループしたスロウ“COOK”も宏実ならではの世界だろう。

「幼少の頃に筝を習っていたこともあって〈和〉の精神を強く持っています。サウンドは和と洋の融合、歌詞は〈日本人女性的な言い方〉にして、詞世界やサウンドも含めてそのギャップを強調しています」。

宏実と言えばメッセージ性のある詞世界も支持を集める点。例えば、「同じ人を2度好きになってしまった」という実体験に基づいたリード曲“Fall in love again”は、サウンド面だけでなく、宏実の精神面で起こった変化を象徴するものだろう。

「個人的に『MAGIC』は前作よりアーティスティックで、よりメッセージ性の高い作品になったと思います。“Fall in love again”や“Unforgettable”もそうですけど、アルバム全体で言いたかったことは……いろんなものを見て、傷や汚れにも前より慣れてしまったけど、やっぱり自分は自分の心に従って、素直で純粋な気持ちを忘れず、怖がらずに自分を信じて進んでいきたい、っていうことなんですよね」。

 

▼宏実の作品を紹介。

左から、2008年のミニ・アルバム『True Colors』(babylicious)、2009年のフル・アルバム『RAINBOW』、2009年のシングル“愛されたい”(共にSugabee)

 

▼関連盤を紹介。

左から、日之内エミの2008年作『ME...』(Venus-B)、宏実と日之内エミの共演曲を収めたMAKAIの2010年作『LOVE LITE』(ユニバーサル)

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掲載: 2011年02月21日 17:46

更新: 2011年02月21日 17:46

ソース: bounce 328号 (2010年12月25日発行)

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