LONG REVIEW――□□□ 『CD』
前作『everyday is a symphony』は全編でフィールド・レコーディングを導入し、さまざまな生活音を楽曲として仕立てたアルバムだった。が、それから1年ちょっとで届けられた新作には、サウンド面での一貫したスタイルはない。ファットなビートを轟かせるヒップホップがあれば、煌びやかな4つ打ちもある。前作の続編的な生活音をサンプリングした曲があり、ラウドなバンド・サウンドを再構築した暴力的なトラックもある。かつてのメンバーである金田朋子を迎えたグル―ヴィーなシティー・ポップまで用意されており、これは初期の彼らをいまも愛するリスナーには、またとないプレゼントだろう。
個人的にもっとも鮮烈だった曲は、村田シゲがトラックを担った“iuai”だ。J・ディラやディアンジェロにも通じるディープなダウンテンポのトラックに喚起されたのか、いつもは唯一無二のスタイルで言葉を吐き出すいとうせいこうが、ここでは良い意味で〈ラップらしいラップ〉を披露している。
といった具合に、あらゆる方向に拡散していく□□□のポップネスを楽しめるのがこのアルバムであり、その点においては前々作『TONIGHT』に近いかもしれない。
その一方、本作での彼らは〈文字〉と〈言葉〉をキーワードに掲げ、リリック面で一貫した実験を試みている。冒頭の“はじまり”や、それに続く“1234”などに顕著だが、彼らは言葉を切り刻み、それをレイヤー状に配置し、一般的な文章の直線的な流れとは異なる、立体的な構造のリリックを作り上げている。
言い換えれば言葉のコラージュを試みているわけだが、それによってリリックの持つメッセージや意味合いを解体するのではなく、むしろ言葉の断片から立ち上るイメージや情緒を重視しているように思えるのがおもしろい。点在する言葉がギリギリのところで繋がり合い、意味を持ち、ひとつの曲のなかでさまざまな物語を紡ぎ出すのである……なんて書いてはみたものの、どうにもややこしくなってしまうし、その革新性は、それこそ直線的な文章じゃ説明しづらい!
ぜひ実際に音を聴き、とんでもない構成になっている歌詞カードを手に取ってみてください。
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