Plastic Tree 『アンモナイト』
[ interview ]
波打つように揺らめくフィードバック・ギターと儚くたゆたう有村竜太朗のヴォーカル――マイ・ブラディ・ヴァレンタイン直系のシューゲイザー・サウンドで幕を開けるPlastic Treeの新作『アンモナイト』。80年代のUKニューウェイヴや90年代のグランジ~オルタナ・シーンをはじめ、メンバー個々の幅広いルーツが効果的に散りばめられた本作からは、どこか仄暗い夜の空気にも似た、ファンタスティックな浮遊感が滲み出している。
2010年末にギラン・バレー症候群という難病を発症した有村の驚異的な回復を経て、いよいよ届けられたこの11作目について、有村と長谷川正(ベース)に話を訊いた。
いまだったら素直に作れるんじゃないか
――レーベル移籍後、2枚のシングル“ムーンライト――――。”“みらいいろ”を経てのフル・アルバム『アンモナイト』ですが、先行で公開された冒頭曲“Thirteenth Friday”の振り切れぶりが、もう……一気に91年まで遡る感覚が。
有村「モロに(笑)」
長谷川「モロに(笑)。どシューゲイザーで(笑)」
――(笑)これは有村さんの曲ですね?
有村「はい」
――この曲が今回のアルバムを紐解く鍵になっていると思うんですけども、収録された楽曲のなかではどのぐらいの順番で出来た曲なんですか?
有村「相当前ですね。このなかに収録されてる曲だと、“ムーンライト――――。”“バンビ”の次ぐらいに作った曲じゃないかな。元々は、武道館用(2010年8月13日に開催された武道館公演〈テント2〉)に1曲作ってもらえないでしょうか、っていう話がきたんです。アルバムにも収録される可能性が高いです、っていうことで。それでまず、〈武道館用に作る曲としては、どういうのがいいかな?〉って考えたときに、〈武道館のSEみたいな曲を作りたいな〉っていう話になって。でね、SEと言えばうちは……13年? 14年?」
長谷川「もう、ずーっとだよね」
有村「もう15年か。ずーっと使ってるSEの曲があるんです。マイブラの“Only Shallow”。だからその……リスペクトしてですね(笑)」
長谷川「オマージュしてですね(笑)」
有村「(笑)まあ、そんな曲を作りたいな、いまだったら素直に作れるんじゃないかな、って。バンドを始めた当初からずっと好きな曲で、もう自分たちの血になっちゃってるんじゃないかな、っていうところもあるし。“Only Shallow”はもうホントに特別な曲になってて……聴くと、ああいまからライヴだな、っていう感じもするし……ここ数年で、そういうものが自分のなかから自然に出てくるようになったんで。だから、段階はけっこう踏んでますね」
――〈自然に出てくるようになった〉というのは、時間的な問題ですか?
有村「うーん、年齢的なものもあるのかもしれないけど、自分の作品に感情を乗せる媒介として、そういう音楽性が必要になってきたのかな。いちばん表現しやすいというか……もちろん、それだけじゃないんですけど……うーん、やっぱり、いろんな曲を作ったうえでかな。あの、“アンドロメタモルフォーゼ”っていう曲があるんですけど」
――はい。メランコリックなノイズが印象的な楽曲ですよね。長尺の。
有村「その曲を作れたとき……この方向、追求と思って」
――ひとつ、振り切れた?
有村「あ、合ってるんだな、って思った。いまのバンドにも、自分にも」
――有村さんのなかで、確認できたところがあったということですね。
有村「うん。以前は〈好きだけどやっていいのかな?〉っていうところもあって」
――それはなぜ?
有村「うーん、好きだけど、プラでやる意味あるかなーって。その頃はたぶん、こういう音の気持ち良さを曲で表現しようと思わなかった。だけど最近は、わりとあたりまえに曲が出てくるようになってきていて。そのなかで、もうちょっと振り切りを強くしたやつを作ってみたいっていう」
長谷川「いままでもシューゲイザー的なエッセンスをちょいちょい採り入れてはいたと思うんですよ。ただまあ、ここまで前面に押し出したことはなかったんで、確かに、いまだったらアリかな、っていう。〈エッセンス〉というよりも〈そのまま〉みたいな」
浮遊感のある夜のムード
――この曲に歌詞を乗せていらっしゃるのは、長谷川さんですよね。
長谷川「はい」
――Plastic Treeは作曲者が必ずしも作詞を手掛けるわけではない。
有村「それはないですね」
――歌詞を誰が書くかは、どうやって決めてるんですか?
有村「大体曲が先に出来るんです。それで、曲を書いた時点で歌詞のイメージがあったら、書いた本人が書こうかなっていうときもあるんですけど、曲によっては、自分じゃない人に歌詞を乗っけてもらいたいな、ということもあって。例えば正くんとかは、〈この曲の歌詞はヴォーカリストに書いてほしい〉っていうことがあったりするんで、そういうのは俺が書いたりとか。初っ端のデモばっかりはどうしても個人作業になるんですけど、大きな流れで言うとみんなで曲を作ってる感じがあるんですよね。だから、歌詞とかでも他のメンバーに相談したりするし」
――この曲に関しては、どうして長谷川さんに?
有村「なんとなく、この曲に合うのは英詞だな、と思って。呪文めいたメロディーでもあったし、パッと聴いて意味がはっきりと伝わるものよりも、英語とかで、しかも、なんて発音してんのかわかんねえや、みたいな感じがいいのかな、っていう話をしてて……で、英語力がいちばんあるのが正くんだった(笑)」
――(笑)英語力で決めたんですか?
有村「ぶっちゃけ俺のなかではそれもあるんですけど(笑)、やっぱりこういう音楽をいちばん好きなのが正くんだし、例えば当時マイブラを俺に教えたのも正くんだし(笑)。だから、正くんに書いてほしいな、って」
――指名された長谷川さんは、どういうイメージで歌詞を書かれたんですか?
長谷川「武道館公演の日が、ちょうど13日の金曜日だったんですよ。で、まあ……日本人にはあんまり関係ないですけどね、13日の金曜日ってちょっと不吉なイメージがあったりとか、暗いイメージがあったりするけど、そういうものを変えるような魔法めいたものが、音楽とか、自分たちのライヴにあるといいな、っていう。あとは、語感もけっこう考えましたね」
――メロディーと他の音がいかに馴染むか、っていうところですよね。
長谷川「うん。そこで飛び出しちゃいけないし、かと言って、あんまり潜ってもいけないし。それと、今回のアルバムや武道館公演の導入部っていうか、招待状的な意味合いの歌詞が書けたらな、っていうのもあって」
――幕が開きますよ、という。
長谷川「そうですね。〈ようこそいらっしゃいました〉って」
――最後の〈We change tonight…〉という部分は、まさに、ですよね。オープニングにも合ってますし、次の“ムーンライト――――。”への繋がりもいいなと思いました。
有村「アルバムのキーワードとして、〈夜〉というのがあって。それをちゃんと表現できたかな、って。音楽的な流れも、歌詞的な繋がりも含めて」
――1曲目は、夜の始まりですよね。2曲目で暗闇のなかから月が昇っていって……12曲目がひとつの到達点というか、出口になっている。
長谷川「うん、うん。やっぱり軸になったのが“ムーンライト――――。”っていうシングルと、“Thirteenth Friday”なんですかね。そういうモードなのかな? いま、バンドとして」
――〈夜〉のモード?
長谷川「夜というか……夜そのものではないにしても、なんだろうなあ……ちょっと深いところで模索する感じというか。そういうことを考えるときって、時間帯的に夜なんですよね。イメージ的にね、なんか……夜って言っても暗くてドヨーンとした感じじゃなくって、夜の持ってる、ちょっとぽわーんとした雰囲気っていうんですかね? ぼんやりと物思う夜というか、浮遊感のある感じ――浮遊感のある夜の時間帯みたいなイメージがあって、それが軸になってるかもしれないです」
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