インタビュー

LONG REVIEW――Plastic Tree 『アンモナイト』

 

Plastic Tree_J

Plastic Treeの11作目『アンモナイト』をぼんやりと覆う白夜のような空気感は、昨年7月に発表された移籍第1弾シングル“ムーンライト――――。”の頃からすでに滲み出していたように思う。

4つ打ちを交えて刻々と変化するビートと揺らめくギター・サウンド、アンビエントな電子音がふわりと溶け合う表題曲は、〈メール画面〉や〈月〉といった歌詞から想起される〈暗闇のなかで仄かに瞬く光〉を音像化したような、〈ベッドルーム・ロック〉とでも言うべき楽曲。ローファイさこそないものの、どこかチルウェイヴにも通じるムードがあるのでは?……と思っていたところ、ニュー・アルバムのオープニングとして公開されたのは、マイ・ブラディ・ヴァレンタイン『Loveless』にも通じる甘美な酩酊感を纏った“Thirteenth Friday”である。

スミス“This Charming Man”を大胆に引用した“バンビ”をはじめ、 UKニューウェイヴ~ブリット・ポップ~グランジ/オルタナなど、彼らにとってのリアルタイムなルーツが投影された楽曲に、ポスト・ロックや電子音響的なアプローチを施した12曲(通常盤は13曲)。加えて、ナカヤマアキラ作の“デュエット”ではプログレ趣味全開の(?)凄まじい展開を見せたり、佐藤ケンケンが手掛けた本編のラスト曲“ブルーバック”ではエモーショナルでありながら儚いエコーをたなびかせたり……と、4人それぞれの嗜好を最大限に注入した楽曲が並ぶ。だが、全体に通底しているのは、日常と地続きの幻想性だ。まるで、夜間にひとりで思考を空転させているかのような、現実から少し浮いた空気感がそこにはある。

また詞世界に関しては、メンバー自身の経験がこれまででもっとも端的に反映された作品と言えるだろう。例えば、有村竜太朗が亡き父へ宛てて記したという“バンビ”。例えば、昨年末に有村本人がギラン・バレー症候群を発症/復活したのちに書かれたという“さびしんぼう”。特に後者の〈見えなくなって/居なくなっても/こゝろの形は残ってほしい〉というリリックは、当人の体験を踏まえると非常に胸に迫るものがある。

けれど、そういった〈思い〉が〈歌〉となって響いたときに呼び起こされるのは、リスナー個々が記憶を深く掘り下げていくような感覚ではないかと思う。懐かしいような、切ないような、温かいような、哀しいような……とりとめのない感情や朧気な記憶が現れては消える。そんな感覚。

暮れの薄闇から明けの薄闇へ――そのあいだに巡らされる彼らの〈思い〉は、ある種の〈揺らぎ〉や〈隙間〉を伴ったサウンドを媒介とすることで、いつのまにか聴き手自身の物語へと形を変える。そして筆者には、その〈揺らぎ〉や〈隙間〉こそがPlastic Treeが創造する音世界の象徴であり、今回の作品で言うところの〈夜が持つ浮遊感〉であるように思えるのだ。

シューゲイズな方向へ振り切った“Thirteenth Friday”を旗印として、みずからの確固たる個性を〈フラットな時代感〉でもって多角的にブラッシュアップしてみせた全13曲。その美しい余韻のなかには、結成から17年を迎える彼らがいまだにフレッシュである理由が隠されているような気がする。

 

カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2011年03月30日 21:00

更新: 2011年04月01日 14:58

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