インタビュー

INTERVIEW(2)――残っていってほしい

 

埋もれている記憶を発掘する

 

Plastic Tree_kenken_A

 

――いま長谷川さんがされたようなお話を私もしようと思ってたんですけど、“Thirteenth Friday”“ムーンライト――――。”あたりは、グローファイ/チルウェイヴにも通じる雰囲気があるなあと思っていて。浮遊感に対するアプローチの仕方とか……あと、個人的にこの2曲からはノスタルジックな印象も受けたので、そういったところも。

有村「へぇ。そのシーンは知らないんですけど、興味深いですねぇ」

――bounceでちょうど〈our beautiful nightmare 2011〉という特集をやったばかりなんですけど、サブタイトルが〈もうすぐ夜が明ける――薄明かりと薄闇で瞬く音楽〉というもので。

長谷川「ああ~、うん。俺も好きそう。それって、シューゲイザーとか音響系の進化型ってことですよね?」

――まあ、そうですね。はっきりした定義付けは難しいんですけども。あと、先ほど長谷川さんが〈深く物事を考えるような時間帯〉っておっしゃってましたが、それはアルバムのタイトル『アンモナイト』にも繋がるような気がするんです。アンモナイト=発掘するもの、というイメージがあるんですけど、私個人としては、今回のアルバムを聴いていると記憶を掘り下げていくような感覚があって。

有村「ああ~、そういう考え方はなかったですね。おもしろいですね」

――実際はどういう意味合いなんですか?

有村「俺、アルバムのタイトルっていっつも曖昧でよくて。曲を媒介にして感情を表現するっていうところで、曲のタイトルだと整理しやすいんですけど、アルバム・タイトルだと曲もいろいろあるし、作り手もそれぞれいるんで、もうちょっと観念的なものでもいいのかな、っていうか。『アンモナイト』っていう言葉が出てきたのは……けっこう前から気になっていた言葉で、単純に自分が好きだっていうのもあるんですけど、なんだろうな? いちばんはじめは〈記憶〉だったりとか、そういうものを曲にして、それが〈記録〉になって、形としてはずっと残っててほしい、っていうイメージがあって、それが俺のなかでは〈化石〉ってものとすごくリンクして。曲って出来ちゃうと作った本人からは離れてくんだけど、でもそこには作った本人の――生き物としての意志があったわけで、それがこう……(楽曲という)形として、ずーっと残ってってくれるっていうのが化石に近いなー、と思って。あとは単純に、見た目がなんか、俺のなかでは音楽的というか。やっぱレコードを知ってる世代なんで(笑)、レコードがあって、CDがあって……音楽って、回るものに封印されてるっていう。アンモナイトは回るわけじゃないですけど(笑)、あの渦を巻いているような感じには、螺旋階段を降りてくような――自分の思考を掘り下げてくようなイメージがあるというか。回ってて、丸くて、元は生き物で――そこが音楽と近いかな、って。自分たちが作ってる音楽とリンクしやすいな、っていうのがあって……うん。あとはもうひとつ、夜っていうテーマが出てきたときに、〈夜〉……〈ナイト〉……〈アンモナイト〉かぁ、って……(笑)」

―― (笑)……ダジャレは、大事ですね。

有村「……ダジャレは、大事です(笑)。でも、そういう韻を踏むような言葉、そういう偶発性にも意味があるな、って」

――〈記憶〉〈記録〉がキーワードなんですね?

有村「うん。だからさっきの話も、言われてみるとそうだな、って思いますね。いろんな感情で曲を作るんだけど、その作業には自分のなかに埋もれている記憶を発掘するようなところが確かにあるんで、やっぱりそこも繋がった、と思う。うん」

 

Plastic Tree_nakayama_A

 

残っていってほしい

 

――では、ここからは楽曲の制作過程について伺いますが、一旦、有村さんの病気で中断……したんでしょうか? 身体はもう大丈夫ですか?

有村「はい。大丈夫です」

――本当に良かったです(笑)。それで、一旦は中断して?

有村「そうですね」

長谷川「ただ、アルバムの骨格が出来るぐらいまでは作業が進んでたんで、あとは竜ちゃんの回復を待って、引き続き……ってとこでしたね」

―― 有村さん、ご本人がいちばんだとは思うんですけども、その時期って、メンバーの皆さん全員が改めてPlastic Treeというバンド自体を考える期間ではなかったかと思うんですね。

長谷川「そうですね。やっぱりね、振り返ると17年ぐらいかな? ノンストップでガーッとやってきたバンドなんで……でも、そういう時期があっても良かったのかな。まあこうやってね、ちゃんと回復してくれたからそう思うんですけど。ただ、そういう経験を踏まえたうえで今回のアルバムのフォルムが完成した、という部分もあると思うんで。だから決して、悪いことばかりではなかったかな、って、いまとなっては思いますね」

――実際こうして有村さんが復活して、アルバムも完成してますもんね。

長谷川「うん……うん」

――有村さんは、病気でお休みされた前後で、考えが変わったり……例えば、復活後に作った曲に関して、お休みしていた間の体験や考えが反映されているものはありますか?

有村「ありますね、やっぱり。“さびしんぼう”や“ブルーバック”は、曲はほとんど出来てたんですけど、歌録りがまだ終わってなくて……だから、やっぱり少なからず……少なからずじゃないな。わりと思いっきり反映されたと思いますね。歌詞も書き換えたし」

――2曲とも?

有村「“ブルーバック”もそうですけど。いちばんは“さびしんぼう”ですかね」

――具体的にどう書き換えたんですか?

有村「全部書き換えちゃったんですけど……単純にちょっと、せっかくこういう曲があっていまがあるんだったら、いまの自分の気持ちをきちんと残しておきたいな、って。でも書いてみたらあまりにも個人的すぎたんで、これじゃ逆に伝わんないや、と思ってフィクションの要素をあとから入れたんですけど」

――いまの自分の気持ち、とは?

有村「結局『アンモナイト』に繋がっちゃったんですけど、〈残ってってほしいな〉みたいな。音楽を媒介にして自分の感情が誰かに伝わって、それが残っていくっていう――音楽のそういうあたりまえな部分が、すごく嬉しく感じられたんで……うん。そういうことを、まあ言えればいいかなあ、って」

――この曲って、はじめはアコギとヴォーカルだけ、ということもあるかと思いますが、なんだか有村さんの声が近く感じられるんですね。とてもノスタルジックに沁み込んでくるというか。

有村「うん、メロディーがちょっとノスタルジックですよね。初っ端はフォーキーだし」

――後半からストリングスが入ってきたりで、ドラマティックに開けていきますが、こういうアレンジは皆さんで考えるんですか?

有村「そうですね。ギターの奴(ナカヤマアキラ)は、けっこういろいろ言うし。ああでも、この曲はみんなで、かな。俺もね、すごく悩んだアレンジだったんで。リズムのパターンもいろいろ試してて、この曲にはやっぱ、ブラシがベストかな、と思って(佐藤)ケンケンにフレーズ考えてもらったりとかして。ギターも録る日まで悩んで……ベースもそうだし、コードの移り変わりとかも相当悩んだよね?」

長谷川「うん。一個一個の音がしっかり見えるぶん、ちゃんと練っておかないと、っていう。意味のあるパート作りをしないと、曲として説得力がなくなっちゃうんで」

 

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掲載: 2011年03月30日 21:00

更新: 2011年04月01日 14:58

インタヴュー・文/土田真弓

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