INTERVIEW(4)――わかりやすくはしてないかも
わかりやすくはしてないかも
――落語家をオープニング・アクトに、っていうアイデアは岩下さんから?
「はい」
――その狙いはどういうところだったんでしょう?
「ああ~、対バンってよくやるじゃないですか、皆さん。でも僕としては、嘘つきバービーはそもそもバンドなのか、みたいなところから始まって。その場の空気を作ってもらうのにいちばんいいのはやっぱ落語かな、って思ったんです」
――〈その場の空気〉の〈空気〉の部分を、もう少し具体的に言ってみませんか?
「(笑)なんでしょうね? うーーーーん……うーーーーん…………なんでしょう? ガイドをください」
――そうですね……私にとって、〈落語会に行く〉というのは、〈江戸に行く〉ということとほぼ同義というか。例えば貨幣の単位も時間の概念も、死生観なども現代とは違いますし、社会の仕組みも、そこで暮らす人たちの考え方もいまと異なるんですよね。死神とか、得体の知れない存在にもずいぶん寛容ですし。だから感覚としては、異世界に入り込んで、また帰ってくる、みたいなものなんですよ。
「それです(笑)」
――ズルイなあ(笑)。
「でもそうですよ。嘘つきバービーも、(音に)のっかる、みたいなことじゃなくて、それを見ている私、みたいな見方のほうが正しいのかな、って最近思うんで。正しいはないか。好きに見ていただいていいと思うんですけど、そういう人が多いかな、って思うんですよね。僕らが暴れようが何しようが、それを傍観してる私、というか」
――ああ~、お客さんの心理としては。
「はい。僕らといっしょになって、〈私も~!〉っていうノリ方じゃなくて、ある世界に踏み込んで、そのなかで起こっていることをただ観ている感じ、ですかね。やってるほうが言うのもおかしな話なんですけど、そういう世界が落語っぽいのかもしれないですね」
――本作の楽曲は、ライヴではかなりやってるんですか?
「ほとんどやってないですね」
――じゃあお客さんの反応も楽しみですね。
「はい。アルバムは1曲1曲で完結させるようにしてますけど、ライヴは全体で1個のことを作っていきたいんで。だからアレンジとかも全然変えていくと思います」
――今回のアルバムに入っている曲を、なんらかの方法で連結させながら、ひとつのものとして見せる?
「そうですね。ライヴは歌詞を聴いてほしいものじゃないんで、空気を感じていただければ。その空気を作っていくうえで、おもしろいようにしようと思います」
――逆に言えば、アルバム作品としては歌詞を聴いてほしい、ストーリー自体を伝えたいっていう気持ちがあるわけですよね?
「ありますね」
――そこで、お客さんの反応とかから〈伝わってるな〉って思うことはあります?
「うーーーん、正直ないです」
――そこをより伝えられるような工夫をしようとか、そういうところは?
「歌詞は何回も聴くものなんで。5年後であったり10年後であったりでもいいんで、最終的に僕が思ってるほうにみんなが捉えてくれればいいと思うんですよ。だから工夫というところでは、逆に飽きないように、わかりにくいようにしてる部分はちょっとありますね。〈桃太郎〉みたいな簡単な話だけど、何年も聴けるよう、何年読んでも飽きないように、違うふうに捉えられるようにはしてる。わかりやすくはしてないかもしれないですね」
――そうした楽曲たちが1枚としてまとまった時に、これまでの作品と比較していかがでした?
「僕はいつも新しいアルバムを作る時に、〈前のアルバム、ダッサ! 次はこんなことしたい〉っていうところから始まるんで、そういう意味では満足してますね。出来た時は毎回言ってるんですけど、〈これは売れるな〉と(笑)」
――(笑)では、この先にやってみたいことは何かありますか?
「いまんとこはないですね。音楽に固執してないんで、音楽のなかでは〈これやっちゃうとダメ〉っていうものがない。だから、自分がおもしろいと思うものを思い付けばやる、っていう感じですかね」