SOUTH CENTRAL 『Society Of The Spectacle』
力強いビッグ・チューンを連発してロック方面にも支持を広げた2人が、いよいよ初のオリジナル・アルバムをリリース! このダンスフロアはもうスペクタクルだ!!
エレクトロの狂騒はニューレイヴといった動きともリンクしながら新しい才能にスポットを当てる契機となり、クラブ・フィールドにもロック界にも多くの有望なアーティストを輩出することになった。そんな熱狂から数年が経過し、ブームの渦中にいた面々は、いよいよ真価を問われる作品のリリース時期に差し掛かっている。例えば、昨年は80KIDZが『WEEKEND WARRIOR』で、クリスタル・キャッスルズは『Crystal Castles』で各々進化することに成功し、この難しい状況を打破してみせたが、ブライトンの過激な2人組、サウス・セントラルにもその実力を証明する番が回ってきたようだ。
「僕らはいつも、何かを始める前にコンセプトを考えるんだ。このアルバムでは、ギー・ドゥボールの『スペクタクルの社会』っていう本がテーマの元になった。本の内容は、メディアが僕らの物の見方や考え方を左右している、っていうものだね。そのアイデアがアルバム全体に流れているんだ」(キース・カミレリ)。
同書からタイトルをそのまま拝借した初のオリジナル・アルバム『Society Of The Spectacle』は、そのコンセプトを元に、彼らが2年の充電期間に聴いてきた音楽やさまざまな物事から受けた刺激を映し出す作品となった。多くの音楽要素を丁寧に混ぜ合わせながら深みを増したサウンド自体には奥行きが出ており、彼らの持ち味である野性味に繊細さも加えられた印象だ。
「僕らはどんなサウンドを使うかってことにものすごくこだわったよ。〈ここはこういうギターの音じゃなきゃ絶対ダメなんだ〉って具合にね。シューゲイザー的な要素もあるとか言われるけど、インターポールっぽい感じのギターを入れたりもした。あとは、ドラムスとベースを可能な限りデカいサウンドで録りたかったんだ。キーボードに関しては、70年代や80年代の古いアナログ機材を使ってる。それで、そういった作業を積み重ねていくうちに、結果としていろんなサウンドの詰まった、良いアルバムが出来上がったというわけさ(笑)」(ロブ・チェトクティ)。
エレクトロのフレイヴァーもバランス良く配合されたポップでキャッチーな先行シングル“The Day I Die”(次々と人々を狙撃する衝撃のPVも必見!)、ドラムンベースにロッキンなギターを差し込んだ“S.O.S”、キースが「ジュール・ヴェルヌの小説にヒントを得て、そこにダブステップの要素を取り込みたいと思って作った」と説明する“Paris In The 20th Century”、エレクトロ・ポップのオリジネイターであるゲイリー・ニューマンをフィーチャーしたダーク・エレクトロ“Crawl”、オリヴァー・アッカーマン(ア・プレイス・トゥ・バリー・ストレンジャーズ)を招いて甘美なギター・ノイズとメランコリックなメロディーを解き放つ“The Moth”といった数曲を耳にするだけでも、2人がアルバムに注いだ情熱は聴き取れるだろう。さらに収録曲の大きな特徴としては、ライヴ・フィーリングがより前面に出た作風だという点も挙げられる。
「最近作った曲は、バンドで演奏することも考慮したものになっているよ。これまではDJをすることが多かったけど、今年はバンド編成のライヴ・ツアーをたくさんやっていきたいと思っているしね。だから今作には、スタジオでバンドといっしょに書いた曲も入っているんだ。2人で基本的なトラックを作ってから、バンドに〈こうプレイしてくれ〉って説明してやってもらった曲もあったし、サウス・セントラルというバンドとして、初期段階からいっしょに作り上げていった曲もあったんだ。PCを使ったアレンジ部分も含めてね」(ロブ)。
バンド形態もあえて採用しながら進化を選んだ2人。いわゆるダンス・ミュージック・アクトにとってはリスクも潜む選択ながらも彼らにはプラスに働いたようで、今後の展開が非常に楽しみだ。
▼サウス・セントラルの作品を紹介。
2008年の編集盤『The Owl Of Minerva』(Klee)
▼『Society Of The Spectacle』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ゲイリー・ニューマンの2006年作『Jagged』(Cooking Vinyl)、ア・プレイス・トゥ・バリー・ストレンジャーズの2009年作『Exploding Head』(Mute)、ペンデュラムの2010年作『Immersion』(Ear Storm/Atlantic)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2011年04月15日 15:16
更新: 2011年04月15日 15:16
ソース: bounce 329号 (2011年2月25日発行)
構成・文/青木正之