インタビュー

andymori 『革命』

 

いまもっとも注目される……すべきロック・バンドである。しかしいったい、彼らのどんな魅力にこんなにも惹きつけられるのか? その答えは、今回の新作でより明確となっている!

 

 

〈メメント・モリ〉という価値観

ただ、若くて勢いのあるだけのバンドではないとは思っていた。聴いていると奇妙な異物感を抱かせる点、聴き終えた後にどこか大きな爪痕が残っている点が、こちらへ静かに疑問として突きつけてくる。もちろん、曲は至極ポップだし、演奏はストレートだし、言葉はわかりやすい。なのに、手放しで楽しいとは言い難い、むしろ不安や畏怖を伴うような感覚がある。これはいったい何なのか?——それが、独自の死生観に拠るものだと気付いたのは、andymoriというバンド名がアンディ・ウォーホルと〈メメント・モリ〉から取られていると知った時だ。〈メメント・モリ〉とはもともとラテン語で〈死を記憶せよ〉という意味の警句。翻してそれは、どんな生命体にも必ず死が訪れるのだから精一杯今日を生きていく、といった思想となる。また、写真家・藤原新也の同名の著書としても知られており、実際にリーダーでメイン・ソングライターの小山田壮平らメンバーはその「メメント・モリ」をいまも愛読しているのだとか。昨年12月に新加入した岡山健二もさっそくその本を手渡されたという。

「今朝も読んでいたんですよ(笑)」(岡山健二、ドラムス)。

「〈これはandymoriの聖書みたいなものだから〉ってお世話になっているカメラマンさんが(岡山に)渡してくれたんです。やっぱり僕らにとって重要な価値観であることは間違いないんですよね」(小山田壮平、ヴォーカル/ギター)。

しかしながら、このバンドがそうした死生観の上に成り立っているという事実は、これまでのアルバムからはやや伝わりづらいところがあったのは否めない。小山田は両親の影響で小さい頃からUSのフォークやカントリーを聴いて育ち、藤原はニルヴァーナやダイナソーJrなど、岡山もジミ・ヘンドッリクスからブルーハーツまでと、影響を受けた音楽はさまざま。そうした〈守備範囲〉の広さが前作『ファンファーレと熱狂』まではまだ散漫にさせてしまっていたところもないわけではなかった。だが、ドラムが岡山に交代したことで、バンドとしてのアンサンブルはかなりタイトになり、と同時に彼ら自身の表現方法もかなり削ぎ落とされることに。結果、彼らが思想の根っこに持つ〈メメント・モリ〉が、手数の少ないシャープな演奏と、音が整理されて聴きやすくなった楽曲のなかから明確に伝わってくるようになった。それが、今回の新作『革命』に結実している。

「こねくり回したことをやりたくなくなってきたというか、もっと自然に出てくる言葉とかメロディーに従いたいって思えてきたんです。いままではちょっと遠回りしていたようなところもあったと思うんですよ。実際に、確信犯的に作ったような曲って、後から好きになれなかったりするんです。〈狙う〉という行為そのものをやっていても仕方ないと思えてきたんですよね。そうなるともう邪念でしかないし」(小山田)。

「いまでも、誰も聴いたことのない曲、特別な曲を作ろうって思っているんです。それは結成した頃から変わっていない。でも、そこを意識したらもう違うんですよね」(藤原寛、ベース)。

「(何かを狙う)意識が曲自体を越えてしまったらダメですよね。でも、今回は全然違う音楽になったと思います」(岡山)。

 

いまこそ自分が変わっていける

『革命』というかなり直接的な言葉をタイトルに与えられた本作は、実際のところ、音数も整理されてメロディーに動きを持たせたシンプルな曲が揃っている。もちろん直情的なギター・サウンドに覆われた曲も少なくない。だが、いずれもメロディーと歌詞と演奏ありきとでも言うようなシンプルな構造になっており、しかも、ガレージ感たっぷりのロックンロール、ロカビリー風、カントリー調と全体的にルーツ・ミュージック色が滲み出ているのも特徴的だ。思えば、彼らはくるりのトリビュート盤にも参加していたし、昨年の〈京都音楽博覧会〉にも出演するなどメンバーとも交流が深いが、どうやら小山田はルーツ音楽を咀嚼しながらもレトリックに頼らず、あくまで歌メロで勝負しようとする現在の岸田繁をも脅かすロック・ソングライターになりつつあるようだ。

「作り方そのものは変わってないんですけど、今回はメンバー全員で曲ごとに同じイメージを共有するようにしました。で、“革命”という曲が出来た時に、本当に自分が救われた気がして。これを核にしたらおもしろいかなって思ったんです。やっぱり曲を書く時って落ちている時だったりするから、いまこそ自分が変わっていける、と思ったんですよね。〈革命〉ってそういう意味でもあるんです。社会を変えるというより、自分が変わっていくというか。それこそ〈メメント・モリ〉じゃないですけど、〈今日より明日をリアルに生きていく〉というイメージなんですよね」(小山田)。

「いまは中心に命の見えない音楽が多いと思うんですよ。外側から強制されることの究極は死ぬということなんですけど、それに抗うのがロックンロールかもしれないし、突き詰めればそれが芸術の在り方かもしれない。そういうところを考えながらやっていきたいと思っているし、今回のアルバムはそこを伝えることができたんじゃないかなって思いますね」(藤原)。

「死と共に生きていくってことを僕らは常に意識している。そういう3人がたまたま音楽をやっているからこういう作品になった。本当にただそれだけのことだと思うんです。そのくらいの感覚で今回のアルバムを作ることができたんですよね」(岡山)。

今日を強く生きていくことは、命の儚さを実感すること。彼らの音楽には、そんな諦念と紙一重のポジティヴィティーが込められている。だがそれは、決して自分たちが特別な音楽家だからではないと話す。

「一人の人間として考えているからこそ自然と出てくるんだと思います。確かに儚さを感じるものが好きです。つまり終末感があるからこそ、生を輝かせようとするわけで。ライヴのSEで“The End Of The World”(スキーター・デイヴィス)を使っているのもそういうことです」(小山田)。

 

▼関連盤を紹介。

andymoriの2010年のライヴDVD「ぼくたちアンディモリ~日比谷野外大音楽堂 ライブ & ドキュメンタリー~」(Youth)

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掲載: 2011年06月07日 15:15

更新: 2011年06月07日 16:00

ソース: bounce 332号 (2011年5月25日発行)

インタヴュー・文/岡村詩野