LONG REVIEW――U-Key zone 『U-Key zone Presents "Advent of UKZ complete"』
もはやそれをどう呼んでも構わないし、大きなシーンのようなものがあってもなくてもいいのですが、大きなブームをでっち上げる必要もないくらい、日本のR&Bは(それこそかつてのブーム時代とは比べ物にならないほどに)シンガーもクリエイターも層が厚くなっていますね。そんな状況を静かに整備してきたのが今井了介やT.Kuraのような先人であり、あるいはNao'ymtであり、本稿の主役となるU-Key zoneです。彼らがニューミュージック上位主義的で排他的なJ-Popの保守本流におもねることなく、R&Bを自然に受容されうるポピュラーな音楽として浸透させてきたことは言うまでもありません。
とにかく、配信で出ていた連作をまとめて曲を足し引きしたこの『U-Key zone Presents "Advent of UKZ complete"』は、そんな彼にとっての最初のリーダー作。その中身は、宏実、為岡そのみ、mochA、HIROKI、HEAT_CZRという5名のシンガーがそれぞれ2曲ずつを披露するというもの。UKZとは馴染みの名前が中心なこともあって、いつも以上に彼自身の作り手としてのエゴが健全に表出された内容になっています。
“This Is Love”で美しいコーラスを織り重ねていく宏実や、ドラマティックな名曲“パラノイド”で鉄壁のコンビネーションを響かせるmochAの安定感は言わずもがな。唯一の男性シンガーとしてロドニー・ジャーキンス×マイケル・ジャクソン風味の“GAMBLER”でポップな冴えを見せるHIROKI、キャッチーなアップに仕上がったこれまた名曲の“Together Again”に濃厚な情感を注ぎ込む為岡そのみ、“Hypnotism”で軟体気味にフロウするHEAT_CZR……それぞれの個性が多様なスタイルで表現されている姿に胸が揺さぶられます。
UKZ自身は通常のプロデュース仕事とさほど意識の違いはなかったようですが、「いつもは当然アーティストが主役ですから、相手の意向に添った曲が選ばれてプロデュースさせていただくんですけど、今回はいつもよりは自分マターですので自分が相手に合うと思った曲を提案させていただいてます」ということで、特に宏実や為岡がオリジナル作とはまた異なる表情を見せているのも納得でしょう。彼はこうも語っています。
「今回お願いしたヴォーカリストは自分が好きな人ばかりで、知名度はまだあまり高くないかもしれないですが、〈この歌すごく良くないですか?〉と問いかけたいです」。
すごく良いです。彼の才能のプレゼンテーションとしての、あるいは彼の信頼する才能たちのショウケースとしての10曲は、ダイレクトに聴く者の感情に訴えかけるポップな機能美に溢れています。冒頭で書いたような理屈とは関係なく、ストレートに聴いて、夢中になりましょう。