LONG REVIEW――ねごと 『メルシールーe.p.』
まるでコマ送りの映像を見せるかのように、内なる可能性をものすごいスピードで開花させているガールズ・バンド、ねごと。今年2月のシングル“カロン”では突き抜けたポップ感を提示した4人だが、それに輪をかけた進化ぶりを示しているのが、今回のコンセプト・シングル『メルシールー e.p.』だ。特に表題曲を聴けば、〈いまを超える〉という前作でのキーワードを、彼女たちが短いサイクルで繰り返してきたことがわかる。
“カロン”のレヴューでも書いたが、ねごとというバンドの特徴は、淡い色彩感覚に溢れたファンタスティックな音世界にある。繊細で柔軟な音色のレイヤーのようであり、その実、ふわりと重なり合った音の層の合間から90年代のUSパワー・ポップ、グランジ~オルタナのエッジが覗いている楽曲は、ダイナミックでありながらハードな印象はなく、あくまでもポップ。そして、楽曲そのものがイマジナティヴなストーリーを雄弁に語る。
そうした自身の美点を、4人は本作でさらに大きく更新している。風変りなシンセに耳を惹かれるイントロからセンシティヴなギターのアルペジオを経て、一気に視界が開けるようなサビへ――その〈暗闇〉から〈光〉のなかへ飛び込むきっかけとなる言葉=〈ハロー〉がどこか不安げで、それでいてあまりにも切実で泣きたくなる“メルシールー”。柔らかな浮遊感とエモーショナルに渦巻く轟音で、どこにも行けない閉塞感をガーリーに表現した“ビーサイド”。そこに、弾けるビートとシュールな詞世界のマッチングが楽しい“ランデブー”、SEKAI NO OWARIの中島真一による“カロン”のリミックスを加えた全4曲。どれもリピート率が高いであろう良曲だが、これらも当人たちが言う通り、1か月を待たずに到着するファースト・フル・アルバム『ex Negoto』の導入にすぎないというのが、また頼もしいところだ。
筆者はその次作を聴いたうえでこの原稿を書いているが、彼女たちの〈この先〉には大いに期待していいと断言できる。そのプロローグにあたる本作も、当然体験しておくべき一枚と言えるだろう。