インタビュー

LONG REVIEW――ねごと 『ex Negoto』

 

ねごと_J170

音に触れた途端にパッと視界が開けるような感覚があって、気付けばファンタスティックな情景のなかにいる。

聴き手の記憶と想像力に即座にアクセスし、一息でリアルとファンタジーが混在する色鮮やかな音世界へと連れていく――そんな、ねごとというバンドの真骨頂が凝縮されたファースト・フル・アルバム『ex Negoto』がいよいよ到着した。これがもう、思わず快哉を上げたくなるほど会心の出来である。

アタッキーなピアノと盛大に鳴らされるシンバルが生まれたての恋心を急激に加速させる“サイダーの海”に始まり、これまでの進化の足跡であるエクストラ・ポップな代表曲“ループ”“カロン”“メルシールー”で固められた前半を軽快に駆け抜けると、一転して叙情的な色を帯びる“ふわりのこと”から個性豊かな新曲群が並ぶ。

音飾といい、フレーズといい、コーラスワークといい、全編において4人のユーモアが炸裂する“七夕”。重低音のベースラインとメランコリックにうねるギター・サウンドが燻る心情を代弁する“week…end”。疾走感溢れるピアノ・ロックのなかに微かなモラトリアムを封じ込めた“季節”など、どれも明度の高い色彩感覚を放ちながら、それぞれこれまでには見せなかった側面を覗かせる。

昨年9月のデビュー作『Hello! “Z”』より作品ごとに取材を重ねるなかで感じたのは、彼女たちはロック・バンドとしてのみならず、リスナーとしてもメキメキと成長を遂げている真っ最中なのだ、ということ。現在までのねごとの音楽性に反映されているのは90年代以降のUKギター・ポップからUSオルタナあたりまでかと思うが、どれほどエッジの鋭いサウンドであろうとも、4人(特に作曲の要となる沙田瑞紀)はそれらがポップに輝く瞬間を逃さず捕まえる術を知っている。それゆえに、ねごとの音楽はとてつもなくキャッチーだ。いわゆる〈メインストリームのJ-Pop〉に足取り軽く踏み込んでいけるであろうポピュラリティーを、自然体で備えている。

『ex Negoto』の〈ex〉には〈元〉という意味がある。だから、新作のタイトルには〈元ねごと=脱皮を果たした自分たち自身〉も刻み込まれているのだ――ツアーの最終日を迎えた6月25日のワンマン・ライヴ〈お口ポカーン!! 対決…したかったファイナル〉のMCにおいて、蒼山幸子はそんなことを語っていた。だが、新たな扉を開いたはずの本作――いま、この時点にすら、彼女たちはもういないのだろう。

快晴の夏空に映える入道雲。青と白とのコントラストが視界いっぱいに広がる風景を眺めているかの如く、流麗なピアノ・リフを中心とした伸びやかなバンド・サウンドが雄大なスケール感で拡散する“インストゥルメンタル”――このエンディングが、すごく良い。ライヴではオープニングに置かれることが多いというこの曲を聴けば、限りない可能性を次々と具現化していくであろう彼女たちの〈この先〉に、想いを馳せずにはいられないはずだ。

 

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掲載: 2011年07月13日 18:01

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