LONG REVIEW――ミドリカワ書房 『愛にのぼせろ』
〈J-Pop界の無頼派〉ミドリカワ書房による、初のラヴソング集。歌詞のテーマがあまりにディープであるがゆえ、かつての作品ではインディーからの発売も余儀なくされたという経歴もある彼。しかし、〈恋愛〉をテーマに掲げた久々のメジャー復帰作は、キャリア史上もっとも爽やかな一枚に仕上がった。松本素生らしい甘酸っぱいメロディーの“魔法にかけて!”“また明日”の2曲を筆頭に、GOING UNDER GROUNDとのコラボも新作のテイストに大きく寄与している。
とはいえ、ミドリカワ書房のことだから、ラヴソングといっても一筋縄ではいかない曲が並んでいるのは間違いない。気持ちの欠片をすくい集めて歌にするというJ-Popのひとつの王道のあり方とは真っ向から対抗し、切々と、リアルな筆致で市井の人々の〈物語〉を紡いできたのが彼だ。その手法は今作でも同じ。先生と生徒の禁断の恋を描く“グッドモーニング”、幼い頃の淫靡な性の目覚めからラスト3行でその後の人生を駆け抜ける“こちょばしっこ”、妊娠したかも?と悩む主人公の逡巡を描く“I am not a mother”、命さえ投げ捨てるつもりで海にきた女に向かって男が思いをぶつける“熱海”。相変わらず、綺麗ごとではすまない人間の〈性〉と、人生のどん詰まりに渦巻く人間の〈業〉が渦巻いている。
これまで数々の問題作を綴ってきたミドリカワ書房。甘いテイストに仕上げられた本作でも、根っこに宿るその毒は変わっていない。
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