INTERVIEW(2)――イビツな一体感
イビツな一体感
――あとキャッチーという部分で言えば、歌詞のなかの〈ウーハー〉はやはり印象的ですね。
「モー娘。ですかね」
――えっ?
「思いっきり有名ですよね? 〈Uh! Ha!〉ってありますよね(2000年のモーニング娘。のシングル“恋のダンスサイト”)。全然関係ないですけどね。あっても困りますけどね(笑)」
――あっ、掛け声みたいな。
「そうですね。こういうコーラスが入ったらおもしろいだろうとか、こういうのがあれば、ライヴでも盛り上がれるだろうとか、そんなところです (笑)。昔は俺、ホントにそういうことに興味がないというか、むしろ嫌いだったんですよ。〈お前らなんで俺の世界に入ってくんだよ〉みたいな感じで、客が いっしょに歌ってるのとか見るとホントにイライラするぐらいだったんですけど、『10』なんかは、自分が意図して作ったわけじゃなかったんだけど、意外と そういう曲が多くて。ライヴでも半分ぐらい客が歌ってるようなね。ああ、こういうことか、と(笑)。こっちだったか、みたいなね。そこ大事にしていきま しょうか、みたいな(笑)」
――その〈こういうこと〉とは?
「cali≠gariだと、基本的には英語の文章なんかを使えないじゃないですか。だからこそ出てくる意味不明な言葉とか、完全な造語とか、そういうもののリフレインで曲を作ってみたりすると、ライヴでは、客がそれを言うわけですよ。〈マッキーナ!〉って言ってるけど、お前らマッキーナってなんだと思って言ってんの?とか。しっかりとした歌詞のある歌をお客さんに歌わせる人もいるけども、cali≠gariの場合はなんだかわけのわからない、意味不明のことを客が、ね? あの光景ってすごいじゃないですか」
――そうですね。言われてみると。
「それがもう、最近のcali≠gariのライヴのひとつの大きな要素というか。曲によっちゃあ俺、こうやってる(会場にマイクを向ける仕草)だけ のもいっぱいありますしね(笑)。前は、なんか客に媚を売ってる感じとか、〈いっしょに楽しもうよ!〉みたいな感じがすごい嫌いだったんだけど、でも cali≠gariの場合、またそれとも違うっていうか」
――どう違うんでしょう?
「例えば、布袋(寅泰)さんのライヴでは、演奏が布袋寅泰、歌がお客さんっていうBOOWYの“Dreamin’”って曲があるじゃないですか。俺もあれ、1回歌いたいんですけど、客で。〈すっげえ楽しそうだな〉って思いますけど、ああいうものとはまったく違いますよね」
――布袋さんの例は、ある意味では会場全体でのコラボレーションとも言えますし、一体感は半端ないと思いますけど、cali≠gariの場合は……。
「うーん、一体感っていうのとは、また違うでしょうね。理解し合ってないと一体感って生まれないだろうし。なんか、理解してない、なんにもわかって ないやつらがそれをやってるっていうのが楽しいっていうかね。で、やったり言ったりしてるお客さんの側も、そう思ってるわけですよ。それがなんか、バカバ カしくて」
――それもイビツな関係性ですよね。イビツな一体感と言ってもいいのではないかと。
「うんうんうん、そうですよね」
――“娑婆乱打”は、ライヴでそういう場面を担う楽曲にしようと。
「そうですね。どうせ出すんだからそういう要素もあったほうがいいなとは思いましたけど、でも、それだけじゃなくて、楽曲としてもしっかりしていて、さらにそういう旨味もあるというか、そんなのがいいかな、って」
最後に残る切なさ
――石井さんが手掛けた曲はもう1曲“トイトイトイ”がありますけども、これも“娑婆乱打”と同じくらいにパワーのあるグルーヴで引っ張られる曲ですね。
「うん、この“娑婆乱打”と“トイトイトイ”が入ってるシングルのほうだけを取ってみたら、“娑婆乱打”がいいっていう人と“トイトイトイ”がいいっていう人が半分ぐらいに分かれる感じだったらおもしろいなと思って。それぐらいカップリングっぽくない曲っていうか、“トイトイトイ”もそういう作りをしてるわけですよ。ライヴでは俺が全然歌わないで、客が歌ったら成り立つ、みたいな。あとはそういうなかにまた、いろいろギミック的なものもたくさん仕掛けつつ」
――それちょっと、お話いただけますか。
「(笑)いやいやいや、楽曲の作りっていうことですよね。あとはほら、メイン・ヴォーカルは俺なんだけど、俺は〈トイトイ〉しか言ってないのに、青さんがサビでしっかり歌詞を歌ってるっていう、そういうところですよね。あとはなんだろうな? 例えばノリのいい曲とか、勢いのある曲っていうのは、意外とノリとか勢いしか残らないんだけど、“トイトイトイ”はそういうんじゃなくて……この曲、だいぶノリのいい部分があるじゃないですか。だけど、最後まで聴くとなんか切ねえな、みたいな。そこもまたちょっと共存しないところかなと思って、うまいことやれたらな、と」
――その〈ノリ〉の部分の話をしますと、“娑婆乱打”といい“トイトイトイ”といい……まあ、この2曲に限らずですが、石井さんの曲はすごくベースラインが動いてますよね。それで独特のグルーヴ感が生まれている。
「そうですね。俺がデモを作って打ち込む段階でね、ベースラインとか決めても研次郎君には通用しないんで。全部変えちゃうから(笑)。だからシンプルにね、ルートだけ刻んでるようなデモを持ってって、もうやっちゃって、っていうね(笑)」
――そうすると、あのぐらい動いて返ってくるっていう。
「そうそう。研次郎君は大体スタジオで、俺がいる前でベース弾くんだけど、楽器の人はシンプルなところから入って、曲をだんだん自分のなかで消化して、理解してきたところでもう少し派手なプレイをしてみようとか、小賢しいの入れようとか、それが普通でしょ? この人、いちばん最初に弾くのがいちばん小賢しいんですよ。まったく曲に合ってないようなものを最初に弾くわけですよね。そっからの引き算なんですよ、レコーディングの仕方が。その考え方がおもしろいなと思って。『10』の何かの曲では、たぶん180ぐらいのテンポの曲を倍で録って。ちょっと、360で弾こうか、っつって(笑)。CDには入んなかったけど」
――それ以前に、弾けるんですか(笑)!
「やりますよね(笑)。すげえおもしろい。そういうの、最初にやるんですよね。そっから徐々に、曲に馴染ませていくっていう」