INTERVIEW(4)――あれより狂うのは無理
あれより狂うのは無理
――もう1曲の“すべてが狂ってる~あんまり狂ってない編~”はいかがですか?
「劣悪な録り音なんだけど、これもリハスタでレコーディングしたんですよね。でまあ、レコーディングだったり、ある程度のトラックダウンは、全部俺がやってます。でも結構難しいところもあって、いわゆるクォリティー自体が格段に落ちてるものだとちょっと、ね、さっき言ってたゴミみたいな感じになってしまうので、そういうのではないんだけれども、他のバンドが同じ方法論を取るには勇気がいるぞ、っていうやり方で録ったんですけどね。なかなか、おもしろいと思いますけど」
――この曲は、個別にレコーディングされてるんですか?
「そうですね。ドラムは普通のリハーサル・スタジオでマイク立てて録ったんですよね。で、ドラムのエディットをしながら仮ギターを聴いて歌を入れてるときに、隣で青さんが適当にギター弾いて、出来上がったファイルを俺がもらってトラックダウンしたりとか。でね、もうドラムが入ってて、ヴォーカルも入ってて、ギターも入ってるって状態なのに、最後までベースがいなかったんですよ。それってドラムがいない状態で演奏するよりつらいんですよ、曲のキーがわかんないですから。まあ歌がね、ああいうメロディーがない感じだからできますけどね。で、最終的に研次郎君のベースはエンジニアさんのところに直接送って、入って混ざったものはトラックダウンの日まで誰も聴いてなかったっていう(笑)」
――これ、ヘッドフォンで聴くとおもしろいなあっていうのがありましたけど。
「そうですか(笑)」
――ギターの右・左のトラックとか、混ざったときのちょっと気持ち悪い感じがよくわかりますので。
「バカバカしさがね、いいですよね」
――この曲のテーマはバカバカしさなんですか?
「わかんないですけどね。なんか、おもしろいじゃないですか。だって俺、最初に青さんが送ってきたデモ聴いたとき、爆笑しましたからね。〈なんだこれ?〉みたいな(笑)。(ヘリウムを吸ったような声で)〈関係ないから~♪〉って歌ってる、微妙なピッチシフトのとこがあるでしょ? あれがね、最初のやつは、もう完全なピッチシフトだったんですよ」
――ああ~、ハチャメチャな曲を真顔で歌われているような(笑)。
「(笑)突然そこから曲が始まったら、なかなか普通には聴けないですよね。で、青さんからは、渋谷でインタヴュー受けてるギャル、あのくらいのだるい感じにしてくれ、って言われてピッチシフトを調整して」
――そこは真剣に調整していった?
「そこは真剣にやるんですよ。そういうのが楽しい(笑)」
――いかにちょうどいい狂いっぷりを出すか。
「でも、あんまり狂ってない(笑)」
――では、今後は〈相当狂ってる編〉とかも出てくるんですかね?
「方法論的には、あれより狂ったやり方は無理だと思いますけどね。だから、あれがいちばん狂ってるっちゃあ、狂ってる(笑)。違うヴァージョンならできると思うんですけど、過激になるとかそういう意味での狂うじゃないと思いますね。青さんのなかにどんなのがあるかわかんないけど、こないだ会ったときは、〈ジャズにできないかなあ?〉って言ってて、〈しなくていいです〉って感じで(笑)。ジャズ……それ要らないでしょ?って(笑)」
――それはそれで聴きたい気がしますけどね(笑)。あと〈お祭り感〉っていう意味で言えば、“娑婆乱打”と“すべてが狂ってる”は通じるところがあるように思いますね。
「うん。相談したりはしなかったけども、結果的には4曲のなかに、世の中の人が抱いてるcali≠gariのイメージも詰まってると思うし、まあ、新たにっていう部分はそんなにはないかもわからないけど、いまのcali≠gariのサウンドっていうのも入ってるし。そういうものが作れたかなと思いますね」
cali≠gariのサウンドが欲しい
――すごく振り切った形で出てると思いますよ。この先のアルバムは、さらに振り切ってる感じですか?
「もう何曲か録らないと全貌は見えないかな。でも、だからって振り切るみたいなことでもないっていうか。〈どっちか〉とか〈どこか〉に振り切ると、cali≠gariの場合は結局何かが足らない感じになるので。こっちもあんのに、そっちいっちゃったよ、みたいな。だから楽曲的な振り切り方じゃなくて、いま、すごく思うのは、〈cali≠gariのサウンドが欲しい〉っていうことなんですよね。CDになった状態で、ってことですけど、ないんですよ、昔から。いちばん理想的なのは、なんか音がボーンと鳴ったら〈これcali≠gariだね〉ってわかるっていう、そういう音。例えばね、激しい曲は、簡単に言えば激しいミックスがされてますよね。だけど、バラードの曲で激しいミックスってしないじゃないですか。俺、〈それ、しろよ〉って思うんですよ。だから、何かひとつcali≠gariの音っていうのがあったら、そのなかに全部突っ込んだほうが、もっとイビツでアンバランスなものが出来るだろうし……バラードなのにヴォーカルすっげえディストーションだよ、みたいな。そういう〈cali≠gariのサウンド〉を作りたいなと思ってて」
――それは“娑婆乱打”のお話にも通じるところかと思うんですが、となると独自の音質を確立させたいという?
「うん。でも、例えば誰も聴いたことのないすごい音を、っていうことではないんですよ。ほら、楽曲によってアプローチ変えるのは、あたりまえじゃないですか。それが逆に、あまりおもしろくないっていうか。何やっててもこれだよね、みたいな音がほしい。例えば『10』なんかは、ドラムのキックとかスネアとか、全曲過剰にゲート・リヴァーヴがかかってるとかね。ブツブツに切った感じの、グルーヴが全然ない感じ。リズムに関してはそういうふうになってて、そのうえで研次郎君のブリブリしたベースが鳴ったら、そのときはおもしろいんじゃないかなと思って……はいたんですが、それもうまくいった部分とそうでない部分があったので、うん」
――それをひとりで模索してる?
「別に〈なんで俺、こんなことやんなきゃならないんだろう?〉みたいなのじゃないですよ? みんなその、大人だし、自信を持ってるわけですよ。研次郎君とか、青さんとかは。誠さんはまったく自信は持ってないけど」
――そうですか(笑)。
「それ、プレイとかってことじゃないですよ。自分に自信を持ってるんですよ。だから、石井さんの好きなようにやっていいよ、みたいな。俺、それってすげえ格好良いスタイルだと思うんですよね。俺はそういう人じゃないんで」
――えっ、自信ない派ですか?
「いやいや、自信があるとかないとか、そういうこと自体考えてないんですけど、〈もうお任せしますから好きにやってください〉とはめったに言えない。まあ、音楽のことに関しては、ですけど。トラックダウンのときも最後の最後まで気になって、エンジニアの人と〈あそこがこうだああだ、もう一回聴いたらこうだああだ〉っていつまでもやってるような感じなんで、結構ウザいんですけど……(だんだん声が小さくなる)」
――(笑)いいと思いますよ。そういう方だから任されてるんじゃないですか?
「もちろん、皆さん興味がないっていうことではないですよね。cali≠gariでは、まあ俺の想像ですけど、研次郎君なんかはCYCLEっていう自分のバンドとかではいろいろ言うだろうし、曲もたくさん作ってるし。だって、cali≠gariのレコーディング中にCYCLEの曲作ってますからね(笑)。そういう人なんで、cali≠gariに関しては自分のスタンスっていうのがあって、それ以上のことは言わない。なんか、そういう立ち位置が格好良い……青さんもそういう感じなんだけどね、いまとなっては。昔はたぶんいろんなことを気にしてたと思うけど」
――石井さんの役が、以前は青さんだった?
「たぶん俺の役っていうのはね、いなかったんですよ。研次郎君と青さんの間みたいな感じで、たぶん二人ともあんまりやりたくない部分をやってたところに俺が、こういうことをやる人が入ってった。そういう感じなんですけど」
――そういうバランスだから、いま、いい感じにバンドが回ってるんですかね?
「と、思いますけどね。いい感じと、ホントにみんなが思ってるのかわからないですけどね(笑)」