PLAID 『Scintilli』
精緻な手捌きで電子のピュアネスを紡ぎ出す匠が8年ぶりの新作を完成させた。文字通りの『Scintilli』にはたくさんの煌めきと閃きが詰め込まれている!
「他のところはまったく知らないし、他をあたりたいって思ったことも一度もないよ。ワープはいつも僕らをサポートしてくれるし、僕らが自然に自分たちを表現することに対して口を挟まずに許してくれる。いま現在、彼らほど知的で、なおかつ商業的にも成功しているレーベルは思い浮かばないよ」(アンディ・ターナー:以下同)。
そう語るアンディとエド・ハンドリーのコンビで、かつて2人が在籍していたブラック・ドッグ時代も含めれば、ワープとは20年近い付き合いとなるプラッド。時代の変遷と共に所属アクトが変化し、いまやロック・バンドまでが在籍するワープにあって、活動当初から往年のワープ色に則るピュアなテクノ/エレクトロニック・サウンドを作り続けている彼らの存在はとても貴重だ。近年は「鉄コン筋クリート」「Heaven's Door」といった映画のサントラ、ヴィジュアル・アーティストのボブ・ジャロックとコラボした『Greedy Baby』の制作など、映像とリンクした新しい作風へ精力的にアプローチしていたため、純粋なオリジナル・アルバムとしては8年ぶりとなる。
「今回はダイナミックでアコースティックなアルバムを作ろうと思ったんだ。最近のほとんどの作品がそうであるように、最初から大きなヴォリュームにするつもりはなかったんだよね。音のパレットは電子音で作られているけど、あえてエラーといっしょにサウンド・デザインした。アコースティックな器楽編成と似た質感をめざして、タイミングと音程の〈エラー〉を織り交ぜてあるんだ」。
専売特許である緻密に構築された電子音やメランコリックなメロディーは健在ながら、アンディの言う〈アコースティック〉の要素がオーガニックで優しい音色や曲調をもたらした結果、ニュー・アルバム『Scintilli』はいつもと少し様子が異なるものとなった。それは牧歌的な雰囲気で始まるオープニング・トラック“Missing”から顕著で、一瞬〈これプラッド?〉とディスクを確認したくなるほど。
「驚かせることができたなら嬉しいね。特定のジャンルに留まることに必要性を感じないんだ。唯一必要としていたのは復唱だけど、これも少しだけに止めた。すべてのパターンが好きだし、心がいつもそれを求めているんだ。“Missing”は基本的にラヴソングで、とある出来事が起こる兆候にインスパイアされたものなんだ」。
オーガニックに感じられる理由は、何も〈アコースティック〉な要素から受ける印象ばかりではなく、ヴォーカルが随所で使われていることにも影響している。“Unbank”ではそのヴォーカルが、歌に聴こえたり、コーラスに聴こえたり、おぼろげなメロディーの旋律にも聴こえたりと、流れるように変容していき、ユニークな試みも見られるからおもしろい。
「すべてのヴォーカル・パートは、2005年にリリースされた〈Cantor〉というソフトを使って合成的に作られているんだ。ヴォーカルを構築する作業は、インストで表現することの素晴らしさを改めて教えてくれたし、このアルバムに使われている他のサウンドもその考えに基づいて作られているんだよ」。
彼らが『Scintilli』のプロジェクトをスタートさせたのは3年前というから、かなりの時間を費やして細かなディテールに神経を使ったこともわかるが、彼らの作る楽曲がいわゆる〈音楽〉という形態を超越し、絵画や彫刻などの他分野でアーティスティックな活動をしている人たちにも通じる芸術性を有しているのは、そんな制作工程がもたらす感覚なのかもしれない。
「作品のデザインと見栄えは僕らにとってすごく重要。僕らはいつもその点にこだわっている。僕らの興味は、音楽を越えて他の形態の反復、配列、構造に広がってるんだ。ライヴ・パフォーマンスにおけるヴィジュアル面をプロデュースするときも、常にこの好奇心を追求しているよ」。
そうやってライヴの話も出てきたところで、来日ライヴも含めた今後の予定を訊いて締め括るとしよう。
「いまはアルバムのライヴ・パフォーマンスを固めてるところだよ。アルバムの解釈をより〈大きく〉した柔軟性のあるパフォーマンスにしたいと思ってる。ライヴはすべてレコーディングする予定で、いいところだけを編集したライヴ・リミックス・ヴァージョンもリリースするつもりなんだ。その他にはサントラ関係のプロジェクトやフェリックス・マシーンとのパフォーマンス用の楽曲も作っているよ。それに今年の12月には日本でショウを行うよ。楽しみに待っててくれよ」。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2011年11月10日 20:00
更新: 2011年11月10日 20:00
ソース: bounce336号(2011年9月25日発行)
インタヴュー・文/青木正之