INTERVIEW(2)――陰のあるものに惹かれる
陰のあるものに惹かれる
──〈ナチュラル・ボーン・シンガー〉というフレーズがいま浮かびました。とはいえ伊集院さんが作る歌詞とメロディーもまた魅力的だと思うんですが、ご自分で作るようになったのは?
「そんなに昔ではないです」
──この独特の歌世界はどこで身に付けたんでしょうか?
「〈身につけた〉という感覚が私にはなくて、ごくごく自然に……もちろん曲を作りはじめた最初の頃は思い付くままに書いていたけど、そのうちに自分の伝えたいことを書こうと意識しはじめて、そういう詩を書くようになりました」
──なるほど。そのヒントになりそうというか、好きな詩人としてお二人の名前を挙げられてますね。まずは安井かずみ。
「独特の言葉遣いとか表現の仕方、詩にすごく共感できます。女性らしい柔らかい部分と、逆の陰の部分もあってすごく惹かれるし……あとファッションもすごくおしゃれな人で、~身体全体で〈安井かずみ〉を生きてるところがとても好きです、人間としても」
──もう一人が寺山修司ですね。
「私は陰のある人というか、暗いものに惹かれる部分がすごく強くて……彼もすごく独特の世界観を持っている人ですよね」
──ものごとの裏側を見るイメージですかね。
「そうかもしれません」
──伊集院さんの描く詩世界もそうですよね。
「そうですね。たぶんほとんどそうなんじゃないかと思います(笑)」
──だからですかね、個人的に古い歌謡曲がすごく好きなんですが、そういうハートにフィットするものを伊集院さんの歌からビンビンに感じるのですが。
「いえ、日本の音楽はほとんど聴かないんです」
──あ、そうなんですか? てっきり昭和40年代や60sの文化が好きで追求した時期がある人かと思ってました!
「いえ、全然。というよりは、自分のやりたいことをやる、という感じでやってます」
──ソウル・ミュージックを好きな人は、どこかで黒人になりたいという意識が働くものですが、伊集院さんはそういう部分が希薄ですよね。
「それよりもいまは、自分らしさを出す方が大切。アレサになりたいとは思わないんです。なれないっていうか(笑)」
シリアスな歌詞を明るい曲調で
──ご自身が思う、伊集院さんらしさとは?
「うーん……自分らしさかどうかはわからないんですけど、いつも詞を書くときに決めているテーマがあって、それは、人生のなかでの陰の部分──孤独とか不安とかそういうものなんですけど──それを歌詞に入れて伝えようと思っているんです。その陰の部分が私らしさのひとつの大きな要素だと思っています」
──なるほど、このデビュー作『あたしの魂』には闇雲に希望を与える歌はひとつとしてないですもんね。かといって人をヘコませる歌ではない。
「特に“Life is beautiful”っていう曲は、タイトルや曲自体は明るいですけど、歌詞では人生における問題を歌っています。生きていくなかで〈人生って素晴らしい〉って言うのはとっても簡単なことではないですよね。でもシリアスな歌詞を明るい曲調で伝えたかった。だから単にネガティヴなだけじゃないんです」
──ドス黒い感情をそのまま吐き出すことが表現として果たして他人にちゃんと伝わるか?という問題もありますもんね。
「聴く人を暗くしたいわけではないんです」
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