インタビュー

LONG REVIEW――伊集院幸希 『あたしの魂』



伊集院幸希_J170

伊集院幸希のファースト・アルバム『あたしの魂(ソウル)』に触れて、仮に本作がウクレレ1本のみで演奏されていたとしても、やっぱり〈ソウル・ミュージック〉として完成していただろう、なんてことを考える。繊細でコケティッシュな魅力を放ちながらもある種の切実さを伴った歌声は、ブルース・シンガー的だと称するに値するもの。


例えば、アコギの爪弾きとフルートのみで表現される冒頭の“WHERE IS THE LOVE”での彼女は、ビリー・ホリデイのように歌った伝説のフォーク・ブルース歌手、カレン・ダルトンを彷彿とさせる。とか考えていたら、“In My Own Time”という曲が控えていてビックリ。カレンの傑作セカンド・アルバムと同名タイトルであるが、歌詞に〈カレンの歌声が響いている〉というフレーズが登場したり、サビの節回しにカレンの影も感じられるなど、これはあきらかなオマージュ曲である。そうか、君は、カレン・ダルトンのように歌いたいんだね? こちらのそんな問いかけに、ブルージーな声を響かせていた彼女が小さくコクリと頷いた(ように思えた)。そんな歌が、オレのソウルを刺激しないはずがなかった。


こういった素晴らしきブルース表現に加えて、聴くたびに筒美京平が作ったソウル歌謡のイントロが頭のなかで同時に鳴り出す“HERO”など70sっぽいブラス・アレンジが施されたナンバーが共存。あちこちに〈レトロ〉というキーワードが散りばめられているけれど、不思議と新鮮さに溢れていて、昭和歌謡の匂いをイメージできない若いリスナーにとってはきっとヒップなサウンドとして届くだろう。5曲入りのミニ・アルバムだが、ジャンボ・サイズの彼女の魅力を伝えるには程好いヴォリューム。次回は全編弾き語りのアルバムをぜひお願い。



カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2011年10月05日 18:02

更新: 2011年10月05日 18:02

文/桑原シロー