伊集院幸希 『あたしの魂』
[ interview ]
伝統的なポップ・ミュージックへの敬意に溢れながらも何か新しい、グッとくる歌が聴きたい、という方にはこの伊集院幸希をおすすめしたい。洋楽的な洗練を感じさせる一方で、古き良き歌謡の情も端々に込められたようなヴォーカル、サウンド、そして歌世界はまさにオリジナル。オールドタイミーなリズム&ブルース~ソウルの影響下にありながら、数多のワナビーズとはどこか真逆のムードを持つ彼女は、極めてシャイなパーソナリティーをまったく隠さない一方で、こと自身のアーティスティックな創作に関しては饒舌になる、というなかなか多面的な魅力に溢れた女性だった、ということも付け加えておこう。
マライアの衝撃
──音楽を志すようになったきっかけはなんでしたか?
「4歳上の姉がずっと洋楽を聴いていまして、あるとき部屋からマライア・キャリーが聴こえてきたんです。中学生のときだったんですけど、すごく感動して、歌いたいなと思いました。それがいちばん大きなきっかけです」
──ほー、マライアだったんですね。彼女に衝撃を受けて、最初にやったことはなんでしたか?
「カラオケボックスにラジカセを持って行って、自分で歌ったものを録音してデモテープを作り、レコード会社に送りました」
──いきなりですか!
「練習は自分なりにしてたんですけど」
──いやまあそりゃそうでしょうけど、中学生にしては大胆というか(笑)。
「なにはなくとも歌いたかったので……」
──マライアからの衝撃が相当強かったんですねえ。じわじわ、ではなくズドン!と。レコード会社からはなんらかのリアクションはありました?
「いえ、まったく。でも最初からうまくいくとは思ってなかったので、とりあえずやり続けようと思いました」
──なかなか胆力を感じさせるエピソードですね。その後はどういう活動を?
「学校を卒業して、就職のために熊本から福岡に出まして。仕事をしながら、バーやカフェで歌わせてもらったり。あと、バンドもやっていました」
──バーやカフェって、ご自分で飛び込みで交渉して?
「そうですね。友達といっしょにやってた時期もありました」
ソウルが好き
──その頃はどんなレパートリーでした?
「1人で歌うときはキャロル・キングやホイットニー・ヒュ−ストンとか……バンドではソウルを主にやっていて、サム&デイヴとかアレサ・フランクリンとか古めの曲を歌っていました」
──サム&デイヴとはまた意外な(笑)。
「けっこう〈ワーッ!〉っていうのが好きで、特に“Hold On, I'm Coming”を歌うと気持ち良いです。アレサだと“Chain Of Fools”とか」
──R&Bスタンダードですよね。やっぱりいまの音楽より響きます?
「たぶんもともとブラック・ミュージックが好きなんです。マライアをきっかけに、古い音楽を探して聴くようになって」
──ルーツを辿るのってオタク気質がないとなかなかできないと思うんですけど、伊集院さんにもそういう部分が……。
「たぶん、あると思います(笑)」
──じゃあなかなか同世代の女の子とは話が合わなかったり?
「いや私、あまり友達がいなくて……(苦笑)、あんまり人に馴染めなくて」
──でも音楽友達はいたでしょう?
「バンドの人たちですね。みんなソウルが好きなので、その人たちとは話は合いましたけど」
──あ! バンド仲間ってみなさん年上でしょ!? ひょっとして同年代とか年下って……。
「苦手です! すごく!」
──やっぱり。さっきから薄々気付いてましたけど伊集院さん、人見知りですよね?
「すごくします!」
──そういうご自身の性格で、ステージに上がることはなかなか勇気がいることだと思うんですが。
「もちろんステージは人前なので緊張しますけど、とにかく歌うことが昔からすごく好きなので」