HALFBY 『Leaders Of The New School』
京都のレーベル、SECOND ROYALの看板アーティスト=HALFBYの新作『Leaders Of The New School』がおもしろいことになっている。サンプリング感覚に溢れたブレイクビーツを基盤に多幸感のあるポップスを紡ぐ人、というデビュー以来のイメージを受け止めつつ、それをスルリとかわすような本作は、前作以上にベース・ミュージックの嵐。カリプソ~ソカ、ボルティモア・ブレイクス、バイリ・ファンキ、フィジェット・ハウス、それにここ数年のあいだに海外で盛り上がってきたムーンバートン(ダッチ・ハウスのスローダウン・ヴァージョンでもあり、レゲトンの亜種とも言えるフォーマット)も飲み込んだ意欲作だ。活動10周年でもある今年に、この作品が飛び出した所以を訊いた。
隙間のジャンル
――今年は活動10周年ですし、改めてこの10年を軽く振り返りたいと思うのですが、そもそもHALFBYとしての活動はどのような経緯で始まったんですか?
「以前からバンドをやっていただとか、音楽を作っていたということはまったくなくて。リミックスの仕事を最初に頼まれて、〈あ、じゃあ作ってみます〉っていうのが最初だったんですね。それはチャーベ君(松田岳ニ)がやっているCUBISMO GRAFICOのリミックス・アルバムだったんですけど。僕はもともと京都のレコード屋で働いていて、チャーベ君はその先輩で、大阪でレギュラーのDJイヴェントをやってたんです。僕も2年間、後輩的な感じでサポートをするようになったんですけど、DJのスタイルを見たチャーベ君から〈曲作れんじゃない?〉って言われたことがきっかけで」
――ちなみに最新作のタイトルが『Leaders Of The New School』となっていますが、音楽の原体験はヒップホップだった?
「というわけではないんですけど。もともと雑多な聴き方で、そのなかでも90年代のロックだったりヒップホップだったりとかは、根底にはあるのかなと思います」
――活動開始当初の音楽的な旬であったり、興味というのは?
「特にハウスとかテクノ、というのではなくて、いろんなジャンルからセレクトしてかけていた気がします。ビッグビートみたいなシーンが出てきた後で、似た雰囲気の生音の曲を混ぜたり。当時そういうDJがあまりいなかったこともあったんですけど、それがHALFBYのもともとのコンセプトに近かった。DJでやっていたことを音楽的にやるという」
――以前80KIDZやHANDSOME BOY TECHNIQUEの森野義貴さんに取材させていただいたんですが、京都や関西から出てくるアーティストの話を聞いていると、レコードショップのバイヤーだったり、アートスクールの繋がりから派生して、音楽をやる方が非常に多い気がするのですが。
「森野君も、80KIDZのJUNも、やっぱり京都の別のレコード屋にいたんですね。スタッフ兼、DJをやっているというか。その延長でみんなアーティストとして、ポツポツ出してきた感じですかね」
――総じて皆さん、あるジャンルに傾倒しすぎず、雑食というか。
「当時に担当していたのがテクノとかレゲエではなく、その隙間のジャンルというかで。ジャズの再発とか、ロック全般とかが担当で、仕事柄いろいろ聴いていた部分もあると思います。僕がもともと働いていたレコード屋は、お店にセレクトショップ的な要素があって。スタッフがジャンルに関わらず推していた。その後、別のレコード屋に移ったときもジャンル担当はすでに分かれていたので、そのなかでジャンルの隙間や、それ以外の部分からセレクトショップ的に音楽を紹介する役割だったんです。例えばファットボーイ・スリムって、どのジャンルに分けていいのかわからない。ハウスであり、ブレイクビーツでありといった感じで。そういう要素を紹介していく、というところはありました」
――そういう意味で、HALFBYの過去のアルバムを追っていくと、やっている音楽のビートや雰囲気が黒くなったり白くなったり、という往来がかなり柔軟になされているなあという印象を持ったんですが。
「そうですね。DJとかでもそうですし。例えば、ヒップホップとインディー・ポップって、急にクロスオーバーすることはないんですけど、そのグラデーションを自分の選曲で作っていくというのが好きで。それは制作においても、出そうかなと」