インタビュー

LONG REVIEW――鶴 『ハートの磁石』



鶴_J170

鶴にとっては、これが記念すべき〈ラスト・アフロ・(ミニ・)アルバム〉。とはいえ音楽性に大きな変化があるわけでもなく、むしろシンプルで溌剌としたバンド・サウンドに回帰した感がある。得意のディスコ・ロック調にラテンのスパイスをたっぷり振りかけた“ハートの磁石”で明るく幕を開け、弦楽器とアコースティック・ギターでとことん切なさを煽る、名曲“桜”にも通じるドラマティックなスロウ・ナンバー“横顔”までの全5曲。意図的に生々しく録られたドラム・サウンドのおかげで、どの曲も非常にホットなライヴ感が強く、Disc-2のDVDに収められた最新ライヴ映像とのバランスがとてもいい。巧いというよりは味わいで勝負する、鶴の魅力を堪能するには好適な一枚と言えるだろう。

個人的な感想を言うと、3年半前のメジャー・デビュー以降の鶴のCDにおけるアレンジと音作りには、ややプロデュース過剰を感じていた。〈ライヴはいいのにな〉と思うこともしばしばだったのだが、たとえば今作の“ひとりごと”や“ニャン”で聴けるピアノのフレーズのさりげない置きどころや、“横顔”の弦楽器のナチュラルな響きは、完全にバンドの血肉のなかに溶け込んでいる。もうひとつ付け加えると、冴えている時の鶴のメロディーは、スピッツ級のスタンダード感を持っていると思うのだが、その片鱗は本作の“ひとりごと”“横顔”などで聴くことができる。開花も近いであろう大いなるポテンシャルをキープしつつ、アフロを脱ぐ彼ら。そのネクスト・ステージに期待しよう。



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掲載: 2011年11月30日 18:01

更新: 2011年11月30日 18:01

文/宮本英夫