INTERVIEW(2)――これは他人事じゃない
これは他人事じゃない
——その“夜を越えて”ですが、非常に男気を感じさせる鶴らしい歌ですよね。迂闊にホロッとしてしまう曲。作品に敷かれたテーマは、〈愛〉ということで。
秋野「観る人によってだと思うんですけど、僕はこう思ったんですよね。深く考えずに笑い飛ばせる漫画ではあると思うんですけど、もう少し深く考えたとき、それを感じました。それに、原作を読んでて〈これは他人事じゃないな〉って思うぐらい、自分と主人公の田中くんに共通するところが多かったんですよね。なんだろうな……たとえば、深く考えなくてもいいようなことまで真面目に考えすぎちゃって、結局モヤモヤしてうまくいってない……とか。プライベートのことでも恋愛のことでもバンドのことでも、答えは自分のなかで決まってて、腹括ったって思っててもモヤモヤが残ったりしてることは多いですね。バンド内で会議していても、2人がオレの答えを一生懸命探し出してくれてるような感じなんですよ」
神田雄一朗(ベース)「自分でも自分の答えがよくわからなくなってる感じなんですよ。〈これはどうなの?〉〈どういうふうに思ってるの?〉〈それが本当なの?〉って、僕らが周りにあるものを掻き分けてどんどん探っていくと、ポッと答えが出てくるみたいな」
——なかなか面倒くさいヤツですね(笑)。
秋野「ホント、そうみたいで(笑)。逆に、答えから先に言っちゃうと、その過程を説明しなくちゃならない……それがまた、できないんですよ。〈そこに至った経緯は?〉〈わかんないけど答えはこれなんだよ〉って言っても納得してもらえないっていう」
神田「そんなことじゃ人を説得できないよ、って話になっちゃうんですよ」
秋野「説得って面倒臭いですよね(苦笑)」
神田「秋野温がこう言ったらこうなんだなっていう存在感を出していけばいいんだよ」
秋野「それ、どうしたらいいかな(笑)?」
笠井快樹(ドラムス)「それはもう、示していくしかないよ。秋野が言ったことはやっぱ間違いない!ってぐらい」
秋野「示すも何も、はじめにドンッと答えを言ったって、誰もそれについてきてくれないじゃん!」
——正解率が上がれば、おのずと信頼と存在感はついてくると思います!……って、話は思わぬ方向に向かってますが(笑)。
秋野「まあ、田中くんのヘンな真面目さと、すごく優しい人間なんだけどそれがうまい方向に転んでない感じが共感できるというか……わかるんですよねえ」
笠井「秋野の近くにいる大体の人は、漫画読んでて〈あっ、秋野だな〉って思うんですよね(笑)」
秋野「でもまあ、決して彼は間違っていないと思うので……」
神田「〈彼〉っていうのは田中くんと秋野の両方にかけていただいて結構なんで(笑)」
秋野「彼はねえ、優しいんですよ。優しくて真面目で愛に溢れてるんですよ!」
神田「それ、〈オレは優しいんだぜ〉って言ってるような(笑)。ヘンな自信があるところも〈彼〉らしい(笑)」
秋野「あるんですよ、彼には……って、ややこしいなあ、この話(笑)。とにかく、アフロ田中くんの真面目さとか悩ましいところとかは、全部優しさという愛があるからだと僕は思ったので、そういうテーマの曲になったわけなんですよ」
笠井「田中くんが考えていることって、秋野がいつも考えてるようなこと……なので、原作の影響をどのくらい受けたのかわからないぐらい秋野の言葉で歌ってますね。僕らもすごくしっくりきました」
神田「うん、映画のために曲を書いてはいるけれど、ただこのタイミングで秋野が新しい曲を書いただけ、っていう感じもするね」
ダメなところも愛してほしい
——映画はもう観られました?
神田「観ました。“朝が来る前に”はいちばんオイシイとこで流れて」
秋野「それ以外にも鶴の曲が本編に散りばめられているんですよ」
神田「歌のないものだったり、効果音みたいなものだったり、結構な割合で鶴の曲が入ってくるので、そこも楽しめると思います」
秋野「流れるたびに、いちいち感動してたね(笑)」
——それはもう、映画観に行かなきゃ!……って、CDの話に戻りますが、カップリングの“リザーブシート”も「アフロ田中」の挿入歌ということで、これは『情熱CD』(2009年)に収録されていた曲ですよね。音はそのままですか?
笠井「せっかくだからって……」
秋野「気付くかどうかわからないですけど、音をちょっと足したりとか」
神田「さりげないリミックスが……ねっ」
——これは映画サイドからのリクエストだったんですか?
秋野「松居大悟監督がすごく気に入ってくれたみたいで、あのシーンには“リザーブシート”がいいって。実際、そのシーンがまたいいんですよ。そのシーンのために書いたんじゃないの、笠井くん?ってぐらいね(笑)」
笠井「うん、予知してたね(笑)」
——〈いいところもダメなところも全部ひっくるめて僕のもの〉とか〈ケンカはしてもいいけどすぐに仲直りしよう〉〈ケンカをする前よりも仲が良くなってますように〉とか、寛大で健気な男心を歌った曲ですけど、実際の笠井さんもこういう男子なんですか?
笠井「そういうところもあると思います。ガツガツ、男らしくっていう感じではないので、結構素直な気持ちで書いた感じですね」
——ダメなところも全部愛せる……と。
笠井「……たらいいなって(笑)」
秋野「逆にダメなところも愛してほしいっていう願望なんじゃない?」
笠井「そっちもあるね(笑)」
- 前の記事: 鶴 “夜を越えて”
- 次の記事: INTERVIEW(3)――「アフロ田中」と現実との境界線にある曲