インタビュー

LONG REVIEW――鶴 “夜を越えて”



鶴_J170

記念すべき鶴のラスト・アフロ・シングル。〈ウキウキとせつなさの伝道師〉たる鶴において、陽性のウキウキ感を象徴するアイテムだったアフロ卒業には一抹の感傷を覚える。しかし〈やっぱりステージで熱かったんだろうな〉とか、そんなに真面目に考える必要がない気もする。「人は見た目が9割」という本があったが、その9割のうちの9割を占めていたアフロがなくなって鶴はどうなるのか。それはこの先のこととして、この“夜を越えて”は鶴のアフロ時代の集大成となる曲である。しかし音を聴くと、心のなかではすでにアフロが脱げかかっているようにも思える。それほどにこの曲での鶴は溌剌と、嬉々として新たな試みにトライしている。

とにかく、これほどクリアでストレートな8ビートのロックンロールは、これまでになかったのではないか。正確なルート弾きに徹する神田のベースがやけに新鮮で、シンバル乱れ打ちとスネアのロールでグイグイ突っ走る笠井のドラム、サウンドのど真ん中に仁王立ちする秋野の歌も極めて男らしい。映画「アフロ田中」の主題歌として、主人公の持つ人間的なストレートさを表現する意図があったそうだが、それは歌詞にも当て嵌まる。迷い多き人の世の中で〈信じる事から/始めてみよう〉〈愛はあるのだ〉といった、あえて断定的なフレーズが生み出す昂揚感とロマン。従来のウキウキとせつなさにスピードとパワー、人を導く力強い信念を加えたこの“夜を越えて”において、鶴の新しいステージはもう始まっている。


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掲載: 2012年02月15日 18:00

更新: 2012年02月15日 18:00

文/宮本英夫