インタビュー

lynch. 『INFERIORITY COMPLEX』



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[ interview ]

疾く、激しく、そして強烈に――。BPM200越えの楽曲が続き、ひたすらテンション高く駆け抜けるようなlynch.の新作『INFERIORITY COMPLEX』。昨年6月のフル・アルバム『I BELIEVE IN ME』でメジャー進出を果たし、そのハードな熱量とメロディックな叙情性を兼ね備えたサウンドで大きく支持を広めてきた彼らだが、今作はバンドの尖った魅力をさらに突き詰めたような一枚になっている。

メタル、スクリーモ、ミクスチャー、UKロックなど数々のサウンドを自然体で咀嚼し、独自の美学を持つ世界を作り上げてきた5人。果たして今回の作品でめざしたものは何なのか? メンバーによる全曲解説で解き明かす。



激しさと、メロディアスさと、スピード



――アルバムは非常にテンションが高い、畳み掛けるような熱量がこもったものになっていると思います。まず、葉月さんは出来上がったアルバムの全体像をどう捉えていますか?

葉月(ヴォーカル)「わりとそこを意図的に狙って作っていった部分はありますね。『I BEVIEVE IN ME』から比べると、幅を狭めたという。より自分たちがどういうバンドなのかをわかりやすくしたいというのが大前提にあって、そのために絞った。激しさと、メロディアスさと、スピード。つまり単純にBPMが速い楽曲であること。その3つで絞って作って、成功しました、っていう感じですね」

――去年のシングル“MIRRORS”のときにも、BPMが速いことがキーになるという話をしていましたよね。その時点でアルバムに向けてのイメージは持っていました?

葉月「そうですね。“MIRRORS”は3曲入りでしたけど、あれが10曲入りになりました、ぐらいのアルバムです。それぐらい極端なアルバムでいいかなと思って作ってたんで」

葉月_A
葉月

――皆さんはアルバムの内容とイメージをどう捉えていますか?

玲央(ギター)「前作がすごく振り幅を見せつけるような形で作られたアルバムだったので、今回はいまの自分たちを反映するっていう意味でも、スピード感、激しさに特化したアルバムでもいいんじゃないかっていう。別の言い方をすれば、前作があるから〈いま〉を表現できるっていう内容になっていきましたね」

晁直(ドラムス)「テーマについては、事前に聞いたりはしてなかったんですよ。もともと激しいバンドって言われてたし、まあ抵抗もなく、素直に受け入れられる感じで。意識せずに自然にアレンジは考えていった感じです。変に考えて作り込んだ感が出るのも嫌だったんで」

明徳(ベース)「今回はすごく速くて激しいんですけど、聴きやすいっていうのもありますね。それはやっぱり、ストレートなことをやってるから。音作りにしてもすごくシンプルにしてるんで。ストレートな作品だと思います」

――明徳さんは、自分のベース・プレイの幅が広がった実感はありました?

明徳「まあ、lynch.に入って2年目なんで。ベースに関して言えば、ようやく肩の力が抜けて、ちょっと遊びの要素も出せるようにはなってきた作品ですね」

――悠介さんはどうですか? 疾走感のある曲にどうアプローチしました?

悠介(ギター)「とりあえず、僕個人的には極力詰めすぎないようにしようっていうのがあって。ただ間を空けすぎるのもあれなんで、そこらへんの微妙なラインを意識しましたね。で、アレンジも極力シンプルなものにしたかった。根本的にストレートな表現になったというのは、仕上がりを聴いてもあります」



MOMENT



――では、アルバムの一曲一曲について訊いていければと思います。まず、“MOMENT”という曲。これは非常にアルバムを象徴するような曲だと思うんですけれども、1曲目という場所に置いたっていうところも含めて、この曲の位置付けは?

葉月「1曲目においたのは、もう直感ですね。去年のツアー中、福岡のライヴハウスの楽屋で出来た曲で。そのときはまだ間奏ぐらいまでしか構成が出来てなかったんですけど、それを聴いた段階で〈あ、これ1曲目がいいな〉って思った。曲順を並べてみるっていうよりも、曲が出来たときの直感をかなり重要視してるんで」

――葉月さんのなかにある〈これは1曲目だな〉っていう直感は、どういうところが決め手になるんでしょう?

葉月「1曲目に相応しい要素っていうのはいろいろあるんですけど、まず言えるのは瞬発力です。始まったときの衝撃がいちばん強いものがやっぱり1曲目にきてほしい。再生ボタン押して、流れてきたときに〈おっ〉ってなる力が強いもの。それくらいかな」

――“MOMENT”がアルバムを象徴する曲だと思ったのは、アルバムのいろんな要素が1曲に入ってると思ったからなんですね。速い2ビート、メタリックなリフ、メロディアスな歌声とシャウトが同居するヴォーカル。そういう要素を凝縮したような曲になっていると思う。そのへんはどうでしょう?

葉月「僕のなかでは、最初の2ビートのイントロだけで全部説明できるかなっていうぐらいの感じですね。あのビートで、あの音圧で、でも上に乗ってんのは叙情的なアルペジオであるという。もうあれでlynch.っていうのが説明できちゃうぐらいの感じかな。こんなに異色のものが集まって、こんな一つのものになるんだよっていう」



THE FATAL HOUR HAS COME



晁直_A
晁直

――2曲目の“THE FATAL HOUR HAS COME”ですが、僕の聴いた印象では、同じように1曲目の感覚のある曲でした。

葉月「あ、ホントですか?」

――いわゆるキャッチーさがすごくある曲だという。葉月さんのなかでは?

葉月「これは、完全なる2曲目です(笑)。でも、確かにキャッチーですよね。僕のなかだと完全に副キャプテンなんですよ。代表ではないんですけど、影の達人みたいな印象。これは“MIRRORS”のときに作った曲なんですね。あのシングルに向けての候補曲の一つだったんです。横浜の楽屋で出来たんで、当時は〈横浜〉っていうタイトルだったんですけど(笑)。〈この曲をシングルで出そう〉みたいな話も出たりとかしたんですけど、むしろアルバムに取っておきたかったという」

――この曲もそうですけれど、晁直さんが高速でドラムを叩いていて。ドラムのタム回しですとか、そういうブレイクもキーポイントになってる箇所があると。

晁直「まあ、そこのセクション自体が曲の落としどころじゃないですけど、キーになってるとは思います。それ以外はもう真っ直ぐストレートな感じなんで。まあ遊ぶとしたらそこぐらいなのかなって」


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掲載: 2012年06月27日 18:01

更新: 2012年06月27日 18:01

インタヴュー・文/柴 那典