武藤昭平withウエノコウジ 『'S Wonderful』
[ interview ]
武藤昭平の弾くガット・ギターと歌、ウエノコウジのアコースティック・ベース――聴こえてくる音はたったそれだけ。にもかかわらず、芳醇なラテン音楽の要素をたっぷりと盛り込み、アコースティックとは思えないほどの熱さと激しさを聴かせてくれるのが、武藤昭平withウエノコウジの醍醐味だ。
約1年半ぶりのセカンド・アルバム『'S Wonderful』には、〈呑み会〉と称して全国の酒場を中心に数多く行ってきたライヴで得た感覚をそのまま曲に落とし込んだ、より親密でエモーショナルな感動を呼び起こす楽曲が並ぶ。他に類を見ない良質な大人のパブ・ミュージックとして最高品質を保証する一枚である。
目の前で呑んでるお客さんを想像して書いた
――お2人の作品での共演は2010年の武藤さんのソロ・アルバム『トゥーペア』から始まり、その後ユニットになって、これで3年連続のアルバム・リリースになりますね。よほど相性がいいというか、やってて楽しいんだろうなと思って聴かせてもらってます。
武藤昭平(ヴォーカル/ギター)「アルバムへの入り込み方というか、主導権の取り方はちょっとずつ違うんですけどね。俺のソロの時もウエノくんはすごい協力してくれたけど、一応自分がプロデューサーだったから最終的な決定は俺がやってた。でも武藤・ウエノの場合は本当に2人で話し合いながら作ってるから、そのへんの比重は全然違いますね」
ウエノコウジ(ベース)「俺はそういうことはあんまり考えない(笑)。ひとりで作るのはひとりでやるべきだし、2人で作るのは2人でやるべきだし、とは思うけどね」
――武藤・ウエノにははっきりとした音楽的なイメージがありますよね。ガット・ギターとアコースティック・ベースを使ったラテン・ミュージックをベースにしたサウンドという。
武藤「そもそも、俺はガット・ギターしか持ってなくて。ギタリストじゃないのでなんちゃって奏法でそれを弾くと、同じストロークでもラテンっぽく感じるから、それでイメージを広げたりしてたんだよね。曲を作る時に。不器用さがその方向性を決めてくれてるのかも」
――もともと武藤さんは、ラテン系の音楽は好きですよね。
武藤「うん。古い友達がフラメンコをやっていて、よく観に行ってたんですよ。フラメンコには本当に衝撃を受けて、アコースティックだからまったりするんじゃなくて、アコースティックなのにすごく熱くなる感じがカッコイイよなって、そういう部分はなんとか上手く出したいなという狙いはありましたね」
――そこで、ベスト・パートナーがウエノさんだった。
武藤「うん。〈なんちゃってジプシー・キングス〉みたいな感じを、この2人ならどうやってできるかな?と。ジプシー・キングス、ロドリーゴ・イ・ガブリエーラとか、そのへんの作品をウエノくんに渡して、〈こういうイメージがオレのなかにある〉と。ジプシー・キングスと勝手にしやがれって、DJで使ってもアコースティックなのにすげえ盛り上がるじゃないですか。そういうことを2人でできたらいいなあというのが最初にありましたね。で、そこからアレンジの仕方がひとつ定着したかなと思ってます」
――ファースト・アルバム『マリアッチ・パンクス』の手応えを経て、この2作目へ臨むにあたってはどんなイメージがあったんですか。
武藤「1枚目を出して、武藤・ウエノのワンマン・ツアーを小さいところでさんざんこなしてきて。そういうこともあって、目の前にいるお客さんを想像して書いた曲が多いですね。歌詞もそうだし、アレンジもそれに繋がってると思うんだけど、目の前にいて呑んでるお客さんに語りかける感じで言葉を選んでいる。ステージ上にきちっと線を引くんじゃなくて、お客さんを巻き込みたいという気持ちは1枚目よりもっとありました。その距離感の違いかな」