INTERVIEW(3)——マイペースで、無理せずに
マイペースで、無理せずに
――あとは、何と言っても最後の“ライフ・イズ・ワンダフル”。メロディーと言葉の美しさと力強さもそうですけど、ゴスペルっぽいコーラスが入っていたり、全体的に祈りのイメージがあって、ほんと感動しました。これはどんなふうに作った曲ですか。
武藤「これは去年の震災直後に書き下ろした一発目の曲です。日本がすごく混乱していて、仕事もキャンセルになるし、家で待機するしかない状況で。ミュージシャンの俺は〈こういう時だからこそ曲を書かなきゃ〉と強く思って、何か降りてこないか?と考えてる時に、ポンと降りてきたのがこの曲。そのときまでは、頭のなかで何も鳴らなかったんですけどね。でも、ふとこれが降りてきた。TVやインターネット、Twitterにはいろんな情報が溢れて混乱していて、みんな殺気立ったり、ちょっとした言葉でカリカリしてしまう状況のなか、とりあえず音をポンと出して、それを聴いたら〈あ、そうだよね〉ってちょっと幸せな気持ちになってくれたらいいなという願いを込めました。もしかしたら当たり障りのないものかもしれないけど、これをふと聴いてくれて、〈隣の人に優しくしよう〉とか、そういう思いが出てくれればいいなと思います。みんなハッピーになってほしいなと思ったから、でも気安く声をかけられない状況の人もいるという時にちょっとでもニコッとできる空気を音楽で作り出せないかな?と思って書いたんですよね」
――ウエノさんもやっぱり、この曲には気持ちが入りますか。
ウエノ「いちばん最初に出来た曲だからね。今回のアルバムはここから始まってるところがあるから。タイトルもそうで、〈ワンダフル〉という言葉が入ったほうがいいなと漠然と思ってたから。アルバムも『ライフ・イズ・ワンダフル』にしようと思ったんだけど、検索したらけっこうあるんだわ。営業的なことも考えて、やめておこうと(笑)」
――結果的に『'S Wonderful』という、昔のジャズっぽいイメージのタイトルになりました。
ウエノ「アポストロフィがカッコいいなと思って。Tシャツにする時にいいでしょ? また営業的なこと言ってるけど(笑)。でも字面がいいのがいいんだよ。バンド名でもそうだし、タイトルもそう。〈武藤昭平withウエノコウジ〉も字面がいいと思うよ。Tシャツにはしにくいと思うけど(笑)」
――これは媒体用の資料に書いてあったウエノさんのコメントですけど、〈こんな素晴らしいアルバムだから売れると思ってる、そしたら武道館ライブというか武道館で呑み会やりたい〉という痛快な発言をしてますね。
ウエノ「武道館で〈呑み会〉できたらいいなと思うよね。でもたぶん武道館は酒持って中に入れないんだよ(笑)」
――残念(笑)。別の場所を考えましょうか。
ウエノ「でも俺、昔、全日本プロレスを観に行ってたときに呑んでたけどね(笑)。最近どうなんだろう? 12月の武道館での〈世界最強タッグ〉で全日本プロレスの1年が終わるんだけど、その最後に“上を向いて歩こう”がかかるんだよ。それを聴きながら帰るのが好きだったんだよね――何の話をしてるんだ(笑)? でも武藤・ウエノでもできたらいいよね。その前に、まずはラ・カーニャ(下北沢のライヴハウス&レストラン)からかな(笑)。小さいところからこつこつやっていけば、わかんないよね」
――親密な音楽ですからね。基本、小さめの会場がハマると思います。
ウエノ「前回のツアーも、普通のライヴハウスのツアーだと正攻法でおもしろくないなと思っていて。せっかく足回りが軽いし、地方にいる友達に〈ライヴができる呑み屋を探してくれない?〉って頼んで、そこから始まったの。向こう(イギリス)はパブがあるでしょ? たまたまそこに行ったら奥でライヴやってて、すげえ良くて……みたいな感じは日本にはないじゃん。こっちでやるときには当然チケットを売るわけだけど、たまたま行ったら〈お、武藤とウエノがやってるんだ〉って、そんなふうに音楽が伝わっていったらいいよね。ライヴハウスももちろん大好きだけど、呑み屋には呑み屋の匂いがあるから、そうやって音楽が伝わっていったらいいと思う」
――9月からは通称〈酒場ツアー〉が始まりますが。
ウエノ「ライヴハウスもちょこちょこ挿まってくるとは思うけど。ぜひ呑みに来てくださいよ。3時間以上やりますから。曲だけだと、1時間ちょっとしかないけど(笑)」
――始まったときは単発のユニットかなという印象も正直あったんですけど、かなり続きそうですね。
ウエノ「無理してないからね。ライヴのやり方もそうだけど、レーベルも〈ウエノが言うんだったらしょうがない〉って言ってるし。俺、このレーベルとは社員が2人ぐらいしかいない時からの付き合いなんで、〈ウエノが言うんだったらしょうがない〉っていう雰囲気になってる(笑)」
武藤「マイペースで、無理せずに。より親密に感じられるような、あったかい気持ちになれるような曲がもっともっと増えると思うし、実際ライヴを観に来てくれたら、その距離感がほっとするようなものに繋がってるのがわかると思う。ライヴをやってる空気がそうなってるんで、それが反映されて武藤・ウエノの新曲になっているんだよね。皆さんも呑みに来て、それを感じてくださいっていうところかな」