インタビュー

INTERVIEW(2)——そのままやってもしょうがない



そのままやってもしょうがない



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――サンバっぽいもの、ロックを感じるもの、シャンソンを思わせる曲調など、ラテンと言ってもさまざまな要素が入ってますよね。改めて、武藤さんにとってラテン音楽の魅力って何ですか。

武藤「なんだろうな。やっぱりドラマーだから……もともとギタリストではないこともあるけど、結局俺のギターは完全なリズム・ギターなんですよ。ボディーを叩きながらコードを弾いて、リズムをしっかり出す。リズムをしっかり出してると、別にドラムがいなくても踊れるでしょ?という持論が俺のなかにあるんですよ。ギターのこのへんの音が、ドラムで言うところのハイハットだとか、ボディーを叩くのはスネアだとか。そこでベースがキックの役割をしてくれて、〈いっしょに音を出したらこんなにリズミカルになるんだよ〉という計算があるから」

――中心になるのはリズムだと。

武藤「そのなかで人にわかってもらいやすいなというのがラテン的なもので、楽器編成もそうだから、そのアレンジがいちばん想像しやすいんですよ。それをまず基本としてやりながら、ロック的なアレンジの曲は変化球みたいな感じで捉えたらおもしろいかな?とか、考えながらやってるんですけどね」

――2人しかいないのに、そのへんのアレンジの妙がすごくおもしろいです。

武藤「そこにはいろんな国の要素があって――例えばジプシー・キングスってスペインのバンドと思われがちだけど、南フランスのバンドですからね。マヌー・チャオがいたマノ・ネグラもフランスのバンドだけどメンバーのルーツはスペイン。もっとシロウト的な発想で言うと、フラメンコの人ってバラを加えて4ビートで〈オーレ!〉って言ってるイメージがあるけど、〈それ、タンゴなんですけど……〉って(笑)。そういうゴッチャになってるところ、あるでしょ?」

――ありますね。

武藤「それがミクスチャーとしておもしろいなと思うんですよ。究極に突き詰めるんじゃなくて、なんとなくのイメージでやっちゃうことが。頭のなかで鳴ってる雰囲気さえ大切にすれば、日本人なのにそれが中南米に行こうが、スペイン、フランスに行こうが、〈ラテンだけど湘南がよく似合うじゃん〉みたいなことにもなるから。そういう具合に、究極に突き詰めないほうが説明しやすいかなと思ってるんですよね。要は、全部〈なんちゃって〉ということなんですけど(笑)」

ウエノ「俺が思ってるのは、そのままやってもしょうがないということ。ジプシー・キングスとかラテンのバンドがあったとして、そのままやってもつまんないでしょ。オレはそれを壊すことをいつも考えてるから。ほかのところでもいつも思ってるけど、〈これが正統だよな〉と思ったら、ちょっと違うほうに行く。それがおもしろいかなと思う。音でもフレーズでも、○○っぽいものよりも、真逆の方向に行ったほうが俺としてはグッとくるポイントがよくあるので。曲を作ってる時はそれぐらいしか考えないかな」

――オリジナルのほかに、すごく味わい深いカヴァーが2曲入ってます。それについて聞かせてください。

武藤「最初にカヴァーしたいと思ったのは“Redemption Song”(ボブ・マーリー)。曲が呼んでる気がして、アレンジもこういう感じでいきたいというものが最初からあった。後付けだけど、今年はジョー・ストラマーが没後10年になるんですよ。彼がジョニー・キャッシュといっしょにこの曲をカヴァーしたこともあって、だから俺はやりたいと思ってるのかな?と。それと同じ発想で、“Englishman In New York”(スティング)はイギリス人のちょっとバカにされるほどの頑固さが歌われていて、その孤高なイメージとジョー・ストラマーの姿がダブって見えて。これも武藤・ウエノとしてのアレンジが閃いていたので、これやったらカッコイイなと思ってたんですよね」

――キーワードは、ジョー・ストラマーですか。

武藤「“イングリッシュマン・イン・ニューヨーク”は頑固なイギリス人のイメージで、その次に“デスペラード・セレナード“という曲が続くんだけど、それも不器用な男のどうしようもない感じが出ていて――武藤・ウエノのサウンドって、めちゃめちゃ器用なものではないじゃないですか。2人ながらもちゃんと考えて作ってるけど、どちらかというと不器用なものをポンと出して、もしかしたら生き方も不器用かもしれないし……というものが、ジョー・ストラマーの生き方とリンクして、没後10年の追悼という感じの気持ちですかね」

――前作では“London Calling”をカヴァーしてましたよね。スティングもパンクを通っていて、ボブ・マーリーもパンク世代に強くアピールした存在だったし、共通項を感じます。

武藤「考えたら、たまたまそうですね」

ウエノ「ハマってると思うよ。これも、そのままやってもしょうがないというところから始まったんだけど。そうか、もう10年なんだね」


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掲載: 2012年08月22日 18:01

更新: 2012年08月22日 18:01

インタヴュー・文/宮本英夫