インタビュー

INTERVIEW(3)――〈作らされた感〉があるのは初めて



〈作らされた感〉があるのは初めて



Ken Yokoyama



――あと、歌詞のワードで気になるものは、やっぱり〈LOVE〉ですね。“Save Us”では〈Only love can save us〉とはっきり歌っている。

「これも〈ロックンロール〉と近いんですけど、結局自分が救われるには、身近なことから大きいことまで〈愛を信じるしかないじゃん!〉と思うんですね。宗教も政治も、何も救ってくれないですよ。ちょっと気が軽くなる程度でいいんだったらそれもいいかもしれないけど、僕らみたいなものは、人の優しさとか、そういったものに触れないと、なかなか一人では生きていけないものであって。いまは生きていくのも難しい世の中だと思うんですね。情報も多い、選択肢も多い、だったらいまこそ大元を見つめ直したいなという気がしたんですよ。歳も歳で、子供がいるということもあるとは思うんですけど、もう〈愛しかないよね〉って思うんです。で、曲作りの順番で言うと、“You And I, Against The World”だとか“This Is Your Land”だとか、すごく表に向かって発信したあとで、ちょっと内に向かったらこういうことに突き当たったんですね。結局〈LOVE〉しかないんだよと」

――でも〈LOVE〉といっても、たとえば10代の子が思う〈LOVE〉は、また違うイメージで受け取られる可能性もあって。そこは限定しないほうがいいのかな。

「そうですね。だって、10代の子はラヴ=セックスですよ」

――男子はそうでしょうね(笑)。

「女子もそうであってほしいな(笑)。それはそれでいいんです。いろんな経験をして、のちのち本当の愛の意味を知って、こんなふうに思ってくれたらいいなと思うんですよね。僕自身、10代や20代でこんなことを思えなかったですし、歳をとって、あれだけの震災を経験したから、改めていま思うことであって。……うん、やっぱ、愛しかないっすよ」

――そして最後に、“If You Love Me(Really Love Me)”。〈愛の讃歌〉のカヴァーでアルバムを締め括る。

「昔から好きな曲で、いつかカヴァーしたいなとは思ってたんですけど、やるにやれない曲だったんですね。あまりにも優しすぎて。でもいまの日本だったら……というか、いまの自分だったら逆にやれるなと思ったんですね。こんなにストレートな古き良き愛の形って、ないじゃないですか? このアルバムでは、去年から今年にかけての新しい価値観や、いまでしか言えないことがいっぱい出てきてると思うんですけど、最後に、自分の親たちが経験したであろう愛の形を自分で歌うことで、僕自身が安心したかったというのがたぶんあると思うんですよね。新しいものをガーッと提示するだけじゃなく、スタンダード・ナンバーで締めたいみたいな」

――いやほんと素晴らしいです、この展開。

「こうやって説明すると、いかにも最初から流れがあったかのような感じなんですけど、曲順は最後に決めたんですよ。特にストーリーも考えずに。それがこういう形に収まるというのは、自分でも不思議な気がしますね。〈やったぜ!〉と思いました(笑)」

――自分で作ったけど、もしかするともっと大きい何かの力で作らされちゃったような?

「そう、〈作らされた感〉があるのは初めてですよ。いままでは言う必要のないことや、そんなに自分勝手にやっても誰もわかりゃしないよ、ということまで言ってたと思うんですよ。でも今回のアルバムは、音はうるさく感じたとしても、歌詞を読めばわかってくれる人がいっぱいいると思うぐらい、いろんな人にキャッチしてもらえる作品だと思うんです」

――タイトルの『Best Wishes』は、最後につけたんですか。

「そうです。曲が出揃った段階で、ギターの(Hidenori)Minamiに、〈今回は歌詞の世界観があきらかにいままでのアルバムと違うけど、どういうつもりで書いたんだ?〉って、改めて問われたんですよ。そこで出てきた僕の答えが、〈宛先不明の手紙〉だったんですね。本当はメッセージ・ボードのつもりだったんですよ。駅にある伝言板ですね。その説明をしたら、〈いまはもうないよ〉って言われて(笑)。だったら、どこの時代の誰に届くかもわからない〈宛先不明の手紙〉みたいなものかな、と。手紙を書く時に使う〈拝啓、敬具〉の〈敬具〉にあたる言葉が〈Best Wishes〉なので、そこからタイトルを取ったんです。直訳すると〈最高の願いを込めて〉になるし、いいと思うんですよね。でも最初はMinamiと2人で〈ポケモンかよ!〉って笑ってたんですよ。〈ポケットモンスター ベストウィッシュ〉っていうアニメがあるので。だから最終的に、どこかの親御さんが間違って買ってくれればいいかなという話になりました(笑)」

――(笑)そしてツアーは12月から。どんなテンションで臨みますか。

「自分でもわかんないですね。最近のライヴでは、自分でもわからなくなるぐらい熱くなって前に出ることが多いんですけど、それはその時思ったことに素直にやっていけばいいかなという気がします。いまのところ、良くなる予感しかしないですけどね。いろんな風景をいっしょに見てきてバンドがすごく強い存在になったと思うし、Ken YokoyamaのバンドではなくKen Yokoyamaというバンドになってますから。いまのKen Yokoyama、いいですよ……って、永ちゃんみたいですね(笑)」




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掲載: 2012年11月21日 18:01

更新: 2012年11月21日 18:01

インタヴュー・文/宮本英夫