石崎ひゅーい “ファンタジックレディオ”「キミがいないLIVE」
[ interview ]
全身全霊を捧げた忘我の歌いぶりと、ピアノの弾き語りから壮大なアレンジのポップ・チューンにまで広がる音楽性。実体験に基づく切実なストーリーと、キャッチーに弾けるメロディー。さまざまな可能性を内に秘めた大器として注目を集める石崎ひゅーいが、初のシングル“ファンタジックレディオ”とDVD「キミがいないLIVE」をリリースした。新境地を開いたシングルに込めた思い、前代未聞の観客のいないライヴDVDに秘めた願いについてのインタヴューは、独特のふんわりとしたムードのなかでゆっくりと進んでいって――。
妄想型ラヴソング
――さあ、今回はデビュー後のファースト・シングルが出ます。タイトルは“ファンタジックレディオ”。曲そのものは新しいものなんですか。
「けっこう新しめで、8月とかに出来たのかな。『スター・ウォーズ』と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と『インディ・ジョーンズ』を観ていたんですけど、逃避させてくれる感じがいいなと思ったんですよ。別世界に行ける感じが。それで、何も考えないでどこかへ連れてってくれるような作品を僕も作ろうと思ったんですよね、動機としては。あと〈baby〉という言葉を歌のなかで言えたことがなくて、〈清志郎さんとかいっぱい使ってるけど、オレ使ってねぇや。使いたい!〉と思って、〈baby〉を言うために作ったようなものです」
――イメージ先行型の楽曲というか。
「妄想と現実逃避、みたいなものはありました」
――それはもしかして、現実でつらいことがあったとか、そういう時期だったから?
「いや、あんまり……でもその頃はけっこう家にいて、僕の家は3LDKでけっこうデカイんですけど、昔はオレと姉ちゃんと姉ちゃんの彼氏と弟とみんなで住んでたのが、いきなり一人になって、それで生活が大変で、部屋もグジャグジャで……って、これ、あんまり関係ないわ」
――あははは! 関係ないのか(笑)。
「全然関係なかった(笑)。でもなんか、人恋しい時期ではあったんですね」
――デビュー・ミニ・アルバムの『第三惑星交響曲』に入っていた曲は、実話に基づいているんだろうなというものが多かったでしょう。
「そうですね。ナマっぽかったですね。“ファンタジックレディオ”もまあ、頭のなかのナマな感じなんだけど、ちょっとぶっ飛びすぎちゃったかな。たぶんファンタジック・モードに突入しちゃってるんですよ。そのモードはいまも続いていて、なぜかはよくわからないんですけど、意味のわからないものばっかり出てきちゃう」
――〈僕は三日月で、君はブランコさ〉。そこから始まって、〈僕は○○、君は××〉という比喩がいっぱい出てくる歌で、これは書いてて楽しいだろうなと。
「そうですね。そこに僕の生活感もちょっと入っていて。鳥を飼っていて、あんまり世話をしないで死んじゃったこととか」
――ああ、〈ピッピちゃん〉のくだりですね。
「そうです。そういうこととか、あとは〈どこかへ行っちゃいたい〉と思ったりするんですけど、僕の性格的に、行ってもすぐ戻ってきちゃうというか」
――それが〈無人島に行っても2日で飽きちゃう〉という歌詞のところ。
「そう。口だけなんです。そういうだらしない自分との葛藤みたいな。そういうことを考えちゃうけど、考えたくないみたいな、そういう歌だと思うんだけど」
――ここ、気になったんですよね。〈僕は11で君は22さ〉のところ。これは年齢? だとすると、初恋の思い出とかかな?と。
「ここは、実は適当なんですけど。何でもよかったんですよ。意味を持たせようかなと思ったんですけど、意味を持たせた途端にダサイ感じになっちゃって。パンパン出てくる言葉を聴いて、なんとなく連想するみたいなのがいいかなと思って。色とか、そういうものは聴いて決めてくださいという歌詞だと思います」
――そして最後に〈君のことが好き!〉と思いきり叫んで終わる。
「これがなかったら、けっこう駄目っすね(笑)。結局それ、みたいな。結局それなんですよ、人間ってみんな。そうじゃないかな?」
――シュールなワードも多いけれど、やっぱりラヴソングですか? これは。
「ラヴソングですね。妄想型ラヴソング」
いまはファンタジック・モード
――サウンドは華やかで、ゆるやかに弾むような明るいビートで。これはアレンジのTomi Yoさんと相談して?
「最初はピアノの弾き語りで、もっとベターッとした感じ。穏やかな感じになるかな?と思いきや、Tomi Yoさんがだいぶポップにして持ってきたんですよ。〈え!?〉と思ったけど、それがすごく良くて。そこから歌詞も変えて、音に寄せたりもしました。すごくおもしろい世界観が出来たなと思ってます」
――遊園地のような、サーカスのような。まさに〈ファンタジック〉なサウンドに聴こえます。
「Tomiさんには、何も説明してないんですけどね。いつもしないんです、そういう話は。歌詞がついた状態で聴かせるようにしていて、そうすると想像しやすいのかな。すごいのにしてくれるんですよ」
――今回はいろんな意味で、〈お、こうきたか!〉と思う人が多いかもしれない。特に『第三惑星交響曲』に強く惹かれた人ほど。
「うん、それもけっこうおもしろいかなと思います。いきなり裏切るというか、そんな感じもするし。別に裏切るという感覚で作ってはいないんですけどね。ビックリする人もいるかなと思うんだけど。自分のなかでは全部アリだから、何でもいいんですけど」
――ポップだけど真面目というか、シリアスというか。第一印象でそういう側面を感じる曲が、『第三惑星交響曲』には多かったから。
「暗い曲、けっこう多いんですけど、そういうのばっかり作ってると本当に暗くなってくるんですよ。明るい曲を作ると、明るくなるんですよ。こういう妄想みたいな曲を書いていると、妄想的な生活になってくるんですよ」
――自分が作った曲に自分が影響される? おもしろいなあ。
「曲に影響されるんです。モードがひとつ決まったら、それに沿っていろいろやっちゃうんですよね。いまはファンタジック・モードに突入中って感じです。でも現実に戻らなくちゃいけないとも思っていて、こんなことばっかり書いてるわけにはいかないんですよ、絶対。だから〈自分! 下りて来い!〉みたいな」
――宙に浮いてる感じなわけだ、いまは。
「そうなんです」