LONG REVIEW――石崎ひゅーい “ファンタジックレディオ”「キミがいないLIVE」
不器用さが生むポップネス
いまの〈ふわふわ浮かんでいるようなモード〉を反映させたように(?)、宙吊りで歌う本人をカラフルな自筆のイラストが彩るPVと、楽曲のタイトルが示す通り。石崎ひゅーいのファースト・シングル“ファンタジックレディオ”は、子供のように突飛な妄想が次々と弾けるラヴソングだ。思えば、母親の死をきっかけに書かれた“第三惑星交響曲”も〈怪獣たちはパレードの途中〉〈ゼンマイのロボットと遊ぼうぜ〉といったおとぎ話のような比喩を、実体験を映した心象風景の間に挿み込んでいたが、今回の新曲ではそのファンタスティックなモチーフがより前面に。というか、もう全面に。恋の始まりに高鳴る鼓動を軽やかなリズムに乗せ、ほんのりゴスペル調のコーラスやハンドクラップと共に〈あー君の事が好き!〉と高らかに歌い上げるクライマックスも微笑ましい、突き抜けたポップ・ナンバーだ。
そんなタイトル曲とは対照的に、カップリングの“エンドロール”はリヴァーブを効かせた音像と薄く加工を施した歌声を通して〈別れの情景〉を綴る切ないバラード。ラストで幾重にも連なるシャウトとつぶやきが、主人公のぬぐい去れない哀しみを生々しく演出している。
また、ふとした瞬間にMr.Childrenの桜井和寿を彷彿とさせるスケール感のある歌声は、今回のシングルと同時にリリースされるライヴDVD「キミがいないLIVE」でも目一杯に堪能できる。ステージ上には本人とバンド・メンバー、そして客席にはカメラを抱えた数人のみ。そうした状況のなかで披露された全7曲のうち、冒頭の4曲は未発表のミディアム・チューンだが、ときに途方に暮れたように佇み、ときに頭を掻きむしり、ときに白シャツの心臓のあたりを握り締めては大らかにエモーションを解き放つその歌唱は、観客のいない大会場に映える。
……かと思えば、後半の“第三惑星交響曲”“3329人”でテンポを上げた途端、舞台上を駆け回っては前転を繰り返したりと、カメラで追っていなければ完全にステージから見切れていたと思われる自由人ぶり。だが、そこからは〈伝えたいこと〉を全身で表現しようとする不器用な彼のパーソナリティーがはっきりと伝わってくる。
新曲では自身の新たな側面を、DVDでは基盤となるライヴ・パフォーマンスを。石崎ひゅーいを初めて知る人にも『第三惑星交響曲』ですでに彼と出会っている人にもオススメしたい2作品だ。